コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 共鳴のプラネット【4/1更新】 ( No.74 )
日時: 2014/04/01 11:19
名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)

 最終章 planet


 事務所にて、planetのメンバーは集まっていた。今年行われるライブツアーについて打ち合わせするために。しかし、話はどんどん脱線していっている。

「……で、ずっと聞きたかったんだけど、この前フード外したのって……」
「事故だよ。今となっては、私には必要のないものだから」

 伊織の質問に夕映が答える。あれだけ騒がせておいて、さらりと答えている。

「歌っている時の表情を見られていたくなかっただけだから。真剣じゃない、とか言われたら困るからね。でも、今は私、自信に満ち溢れた顔で歌っている自信があるの」

 そんなことを、笑顔で言えるようになったことも大きな進歩だろう。こんな風に、自分に正直に生きる夕映が最高に格好いいと伊織と響は思った。

「伊織、響、今まで色々な迷惑をかけてごめんね」

 突如、夕映が謝罪を述べる。
 もちろん、二人は謝罪を言われるようなことをされたとは思っていないのだが、夕映の気が済まないらしい。

「それと、ありがとう。私、二人のこと、とっても大事な仲間だと思ってる。私が制作した歌は、二人に向けたメッセージだから……」

 それは、夕映が制作した楽曲二つのうちの「この声を」の方だろう。しかし、伊織と響はそれに「とても愛しかった」という言葉が入っているのを思い出す。果たして、それはどちらに向けられた言葉なのか、という疑問が生まれる。

「二人のこと、大好きよ」

 心を読み取ったように、いい笑顔で夕映が告げる。

「……ドンマイ、伊織」
「お前もな。苦労するわー……」

 二人は心底がっかりしたようにうなだれた。



 それを、扉の外からこっそり見ていたプロデューサー陸也。夕映の言葉に笑いを抑えるのに必死になっている。隣には可哀想に二人を見つめる事務所の女性社員もいた。
 二人は、出直そうと思い、一旦その場を離れ、廊下を歩きはじめた。

「……あの、素朴な疑問なんですけど、『planet』って名前、陸也さんが提案したんですよね? あれってどういう意味なんですか?」
「ん? ああ……」

 一旦言葉を区切り、陸也は言いなおす。

「夕映の名字は『白土』伊織は『天王』響は『須金』……全員惑星の漢字が一つずつ入っている。夕映は土星だ。土星の意味は『制限』『忍耐』とか。伊織は天王星で、『革命』『奇行』とかな。響は金星で『調和』『平和』とかだ」

 それだけでは分からない。説明を促すように陸也に無言で視線を送る。陸也も、言葉を続けた。

「制限されたものを、革命を起こし爆発させる。それを調和し、いいものをつくるんだよ、あいつらは」

 やっと意味が分かったように、女性は「納得」という顔で頷いた。

「陸也さん、ちゃんと三人のこと考えているんですね」

 笑顔でそう言うと、陸也は少し照れたように踵を返した。女性と二人きりでいるのは気まずいのか、急ぎ足でplanetの元へ向かった。

 心の中で夕映に呼びかけながら。

 

 ——なあ、知っているかマリオネットちゃん? マリオネットは所詮人形。操る人間がいないと動けない。
 ——だが、人間なんて皆がマリオネットだ。動かされて、動くモノたち。
 ——大事なのは、「誰が操るのか」だ。最上級の人形は、自分で操り師を選ぶ。
 ——伊織と響を操り師に選んで正解だ。同時に、お前は伊織と響のことも操っている。

 ——互いに、操りあって、認め合って、罵りあって、動かされ続けて、いい動きが出来るんだよ。


                           最終章 完