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- Re: 共鳴のプラネット【1/2更新】 ( No.8 )
- 日時: 2014/01/10 19:56
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
第0章 籠の中に少女
夕陽のオレンジ色の光が照りつける夏のある日、高台に向かって走る二つの影があった。
「はやく高台に着いた方が勝ちな! 響!」
「スタートダッシュ、ずるした伊織が勝つに決まってるだろ!」
走りながら、二人の少年の騒がしい声が響く。
どうやら、ちょっとした勝負をしているらしい。しかし、響が言った通り、スタートダッシュを勝手に始めた伊織が勝つのが当然だと言えるだろう。
「へへーん、俺の——」
——俺の勝ち。
そう言おうとした伊織の声が止まる。少し遅れて伊織に追いついた響が不思議そうに伊織の視線の先を見る。
少女がいた。
艶やかな黒髪を風になびかせ、遠くの青い海を見つめている。二人の声が届かなかったのだろうか。こちらには気付いてない。
少女が、突然大きく息を吸う。
強く、安定した声が耳を襲う。その美しい声が少女から発されていると思うと、驚きがさらに勝った。
「な、何だよ……この声……」
「分かんない……けど、すごいよ……」
聞いたことのない曲だった。それでも、こんなにも「すごい」と感じた。
サビに到達すると、もっと強く声を出した。それは、自分たちと同じくらいの年であろう少女が出せる声なんかではなかった。今までとは少し違った声だけど、美しい。しかし、二人は感じていた。強くあるが、どこか脆さがある儚げな声だと。
歌が止まる。歌いきったようだ。
伊織と響は無意識のうちに拍手を送っていた。その音に気付き、少女がパッと振り向く。二人の存在に気付くと、警戒するように一歩下がる。
「すごいな! あんな綺麗な声聞いたことねえよ!」
伊織が少女に向かって笑顔で声をかける。それでも、少女の無表情は変わらず、返答はなかった。
「見たことない顔だけど……ここら辺の子?」
そう。ここはそんなに大きな街ではないので、同い年くらいの少女の顔を見たことがないはずはなかった。引っ越してきたのだろうか、と響は考えた。
響の質問に少女は微かに頷く。そして、二人の顔を交互に見てから、声を放つ。
「あなた達こそ、誰?」
待ってましたという風に伊織が自分を名乗る。
「俺は天皇伊織! 先月十歳になった!」
響も、伊織の騒がしさを無視しつつ、穏やかに自己紹介をした。
「僕は須金響。伊織と同い年だよ」
伊織が「お前は?」という風な顔で見つめてくる。少々嫌そうに少女は口を開く。
「白土夕映。九歳」
自分たちより一つ年下だったことに驚いた。彼女は大人びていて、同い年、もしくは年上だと思っていたのだ。
「ゆえ? 漢字でどういう風に書くの?」
伊織がさらに質問する。夕映はさらに嫌そうな顔して、観念したように答える。伊織はそんな夕映の様子には全く気付いていなかったわけだが。
「夕陽の映像」
完結にそれだけ答える。面倒臭そうに夕映はため息をつく。
その言葉を聞き、響は「夕映」という二文字を想像する。彼女に似合う綺麗な名前だと思った。
「そうなんだ。綺麗な名前だね」
恥ずかしげもなく、自分の思ったことを直接言った響に少し動揺しながら夕映は小さく「どうも」と答えた。