コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: ナメコとワカメのふらいあうぇいっ ( No.8 )
日時: 2014/01/13 22:23
名前: いろはうた (ID: UgVNLVY0)

*かすかに朱が混じった半月の夜、撫子(なでしこ)は昇降口を出た。

履き慣れたローファーに包んだ足を踏み出すたびに、小さく硬い音が闇に広がって消えていく。

とても静かな夜だ。

空気に溶けているキンモクセイの香りを少し吸って、とても大きな

イロハカエデの前を通り過ぎ、校舎の角を曲がった。

少しすればうすぼんやりと自転車置き場が見えてきた。

その奥の方に、自分の白い自転車が闇にひそむようにひっそりとたたずんでいた。

自転車置き場は明かりが少ない。

朝はなんとも思わないが、夜は少々薄気味悪い。

まとわりつく甘ったるいぬるい空気をかきわけるようにして、

いつもより長く感じられるコンクリートの道を早足で進む。

その時、撫子は、闇の向こうから誰かが近づいてくることに気付いた。


(……あ)


わずかな光に照らされながらこちらに向かって歩いてくるのは、

撫子の後ろの席の四条君だった。

部活帰りなのだろうか。

大きなスポーツバッグを肩にかけ、すらりとした長い脚を交互に動かしながら、無表情で歩いてくる。

くせのある真っ黒な髪がそれに合わせてふわふわ揺れる。

彼の紫を帯びた黒い瞳が一瞬撫子をとらえてわずかに揺れた後、すっとそらされた。

撫子も彼にならって、そっと視線をそらす。

もともと四条君だけでなく、男子とはあまり喋らないから

四条君とあいさつを交わせるような仲ではない。

彼とは必要最低限のことしか話したことがない。

彼のことを何も知らない。

だけど、今ひとつわかることがある。

撫子と反対方向に進んでいるということは、駅へと続く南門に向っているのだろう。

つまり、四条君は電車でないと通学できないような学校から少し遠い所に住んでいるのだろう。

ささやかなことだが、こうやって人を知っていくのは嬉しい。

人と人との関係が薄いクラスだから、小さいことでもクラスメートのことを知れるのは、

撫子にとって大きなことだ。

唇に少しだけ笑みをのせて、撫子は四条君の横を通り過ぎた。




ゾクッ




背を冷たいものが走った。