コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ナメコとワカメのふらいあうぇいっ ( No.43 )
- 日時: 2014/02/01 00:38
- 名前: いろはうた (ID: 6Bgu9cRk)
*唇をかみしめて、迫ってくるハヤブサに刃を向けた。
体がふらつく。
霊力を使いすぎたな、と心の中で苦笑した。
「水無月!!」
撫子は、突然自分の名字が呼ばれたことに驚いて、落ちた。
もともとふらついていたのに加えて、今聞こえるはずのない声を聞いて、
見事にバスケットゴールの上から落ちた。
ハヤブサが半拍後に、ものすごい勢いで撫子の頭があったところを通過した。
空中で体勢を立て直そうとしたが、できない。
床に激突することを想像して、根でしこは身を固くした。
ドサッ
……思っていたよりも、痛くない。
「…………っつ」
思わず閉じていた瞼を開くと、痛そうにうめく四条君の顔が撫子の顔の目の前にあった。
はたから見れば、撫子が四条君を押し倒しているような図となる。
遅れて、四条君が、落ちる撫子の体と床との間に体を滑り込ませたのがわかった。
「な、ななな…!」
なんで、と問い詰めたいことが多すぎて言葉にならない。
ヒュンッ
鋭い音と共に、黒い帯が素早く撫子の片方の手首に巻きついてきた。
「………え…?」
そのままあらがえぬ強い力に引っ張られる。
引きずられる。
「……ちっ、くそっ」
四条君が顔を歪めて、撫子のもう片方の手首を強くつかんだ。
ハヤブサの姿はもうない。
そこにあるのは、もやのような闇。
ブラックホールのようなそれは、時々生き物のようにゆらりゆらりと揺れた。
撫子の片手を拘束し引っ張ってくる黒い帯は、そこからきていた。
「…や、やばい、やばい、やばい!!
なにあのやばすぎるかんじっ…!?」
撫子は涙目になって叫んだが、そんなことにはおかまいなく、
黒い帯の引っ張る力はどんどん強くなる。
…このままじゃ、四条君を巻き込む。
「四条君!!
手を離して!!
私のことはいいから、早く、逃げて…っ!!」
そう叫んだとたん、ズキン、と鈍く頭の奥が痛んだ。
———いつだっただろうか。
—————————遠い昔、誰かに似たようなことを言ったことがある。
「ここまできて、離すか……!」
「な、なんで…」
なんで、来てくれたの。
なんで、逃げないの。
———ただ、彼は、顔を歪めながらも、撫子の手を離そうとはしない。
「くそっ…なんなんだ…これ…」
四条君は、足で引きずられる力に対抗して踏ん張りながら、撫子の手首を縛る
黒い帯をほどこうと、その闇に触れた。
世界が、震えた。
ぐるりと視界が反転する。
ビュッと耳元で風がうなる。
ずいぶんと下の方にバスケットゴールが見えた。
遅れて、黒い帯にすさまじい力で体ごと体育館の天井近くまで振り上げられたのだと悟る。
撫子の髪がふわりと広がり、ライトの光を浴びて、美しい銀色に輝いた。
撫子の手首を掴んだままの四条君がこちらを見た。
強い瞳だった。
一瞬だけ見とれた。
空中に振り上げられた、落ちたら間違いなく死ぬ高さの位置にいながら
その瞳から目が離さなくなった。
黒い帯が今度は下からすさまじい力で引っ張ってきた。
霊力が足りない。
言霊はもう、使えない。
びゅうと強く髪がなびいた。
闇に向かって、なすすべもなく落ちていく。
撫子は覚悟を決めて、四条君の制服をギュッと握りしめた。
彼が自分から離れてしまわぬように。
まっすぐには、彼の目を見ることはできない。
「…ごめんね。
………まきこむ」
頭の上で、ふっと笑う気配がした。
「…なんで、謝るわけ?」
「…え…?」
撫子は驚いて四条君の顔を見ようとした。
だけど、それは少し遅くて、次の瞬間には意識が真っ黒に塗りつぶされた。