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Re: ナメコとワカメのふらいあうぇいっ ( No.106 )
日時: 2014/02/26 14:41
名前: いろはうた (ID: 6Bgu9cRk)

*「——————動くな」




聞き慣れない、少しハスキーな声が聞こえた。

白夜は動きを止めた。


「動けば、てめえののどをつぶす」



よく見れば、白夜の首には、何者かによって短刀がつきつけられていた。

今の声はその何者かが発したようだ。

白夜は紅い瞳のみを、そちらに向けた。


「久しいね、獣の一族の者よ。

 しかし、今は刀をひいてはくれまいか。

 私の長年の夢が、ちょうど今、叶いそうだから」

「黙れ。

 他人(ひと)の領域の前で、ぎゃあぎゃあやってんじゃねえよ。

 とっとと自分の領域に戻れ」


短刀をつきつけているのは、獣のような金の瞳をもつ若者だった。

撫子はただ、呆然としていた。

何故、あの若者が白夜を止めてくれたのかがわからない。

彼は鳥居の向こうの住人だろうか。

とりあえず、撫子は和火の体を自分より後ろに座らせると、自分は彼をかばうように前に立った。


「私は、今日はあまり荒事をしたくはなかったのだけれどね…」


白夜は、ふうっと息を吐いた。

その唇が深い三日月の形に刻まれる。





「ああ…まこと——————わずらわしきこと」




白夜は、短刀をつきつけている若者の手をすばやくひねりあげると、その腹に一発重い蹴りをくらわせた。

蹴飛ばされた若者は地に足をついて、ズザザッと後退した。


「…っ、てめえ…」

「動けぬだろう…?

 腹に術を施した。

 しばらくはしびれて動けぬよ。

 そこで見ているといい」


白夜がこちらを振り返った。

その血のように紅い瞳と目があう。

体中によくわからない震えが走った。

その時、腕を強く掴まれて、ぐいっと後ろに引っ張られた。

熱い手。

和火だ。

背に冷たいものが走る。

彼の瞳が淡い緑に輝いているのが見えた。

ズキン、と強く頭が痛む。

その手に握られているのは、あの刀だ。


「…こいつに…触るな…」


抜身の刃のような声。

和火が和火でないような感覚。

ダメ。

抜かないで。

その刀を抜かないで。

そう言いたいのに、唇は凍ったように動かない。