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Re: ナメコとワカメのふらいあうぇいっ ( No.143 )
日時: 2014/03/14 10:53
名前: いろはうた (ID: DYDcOtQz)

*「なあ」


唐突に慧が声をかけてきた。

撫子は目をしばたかせて彼を見た。


「はい」

「…なんで茜は呼び捨てで、おれは『慧さん』なんだよ」


撫子は言われた意味が分からず、ゆっくりとまばたきをくりかえした。

彼のことを慧さん、と呼んでいるのは、彼が命の恩人であり、

撫子よりも少しだけ年上のように見えるからだ。

首をわずかに傾けて考えていると、茜がはじけるような笑い声をあげた。


「慧お兄ちゃんはね、撫子に呼び捨てで呼んでほしいんだって」

「え、っえええ!?」


見れば慧は反論することもなく、そっぽを向いている。

否定しない、ということは呼んでほしいということだろうか。

撫子は少しだけためらったあと、そっと彼の名前を唇に乗せてみた。


「け、慧…」

「………」


返事はない。

だがわずかに彼の頬に朱がさしているように見えるのは、差し込む夕日の光のせいだろうか。


「あはは!

 お兄ちゃんが照れてるの久しぶりに見た!」

「う、うるせえ、茜!!

 ちっ。

 …おまえも、さっさと帰るぞ」


盛大に舌打ちしながら、慧は撫子にちらりと視線を投げかけた。

対する撫子はきょとんとしていた。


「え、帰るって…」

「ねぼけてんのかおまえ。

 おれの家に帰るに決まってんだろうが」


たっぷりとした沈黙が落ちた。


「き、着替えは…?」

「茜の着物をいくつか玄関にまとめといた」

「寝る場所は…?」

「心配しなくても、部屋ならいくつかある」

「お、お風呂は……?」

「だっ、だれがおまえと一緒に入るかよ!!」

「…お兄ちゃん。

 別に撫子は、お風呂一緒に入ろう、なんて言ってない」

「うるせえぞ茜!

 とにかく、おまえはこれからおれの家で面倒見る。

 つーか、さっき言ったよな?

 おれがおまえの面倒をみるって」

「それは、さっきだけで、これからは茜の家でおじゃまになるのかと…」

「ちっ。

 …まあいい。

 用も済んだし、さっさと帰るぞ」


また舌打ちまでされたが、彼は撫子が立ち上がるのを待っている。

撫子は、もう一度だけ和火に視線をやると、ゆっくり立ち上がった。