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Re: ナメコとワカメのふらいあうぇいっ ( No.210 )
日時: 2014/04/05 13:38
名前: いろはうた (ID: DYDcOtQz)

*「——————撫子!!」


はじかれるように顔をあげた。

すさまじい速さでかけてくる若者が土砂降りの中、見えた。


「け、い……?」


これこそ夢を見ているんじゃないか。

まばたきをしたら彼の姿は消えてしまいそうで、怖くて目を閉じられない。


「けい……」


消えないで。

手を伸ばす。

だけど足がついていかないから、バランスを崩した。


(あ、倒れる……)


とっさに目を閉じて衝撃を覚悟した。

けど、ぬかるみに倒れる前に強い指が腕を掴んでくれた。


「おい!

 しっかりしろ!!」

「けい…」


少女は虚ろで美しい青い瞳を慧に向けた。

彼だけが、今、自分をつないでくれる唯一のものだ。

獣の強い瞳。

強く美しく危険な金の瞳。

それは今、少女のことしか映していない。

もうそれ以上我慢できなくて、慧の首に腕を回して抱きついた。


「なっ!?

 ちょ、おい!?

 撫子!?」

「けい……けい……」


こらえきれずに、食いしばった歯の間から嗚咽が漏れた。

驚きと戸惑いで動きを止めた慧だが、

やがて、おそるおそるその手を彼女の背にまわして、あやすように優しくさすった。

その温もりに、体の奥から熱いものがあふれて止まらなかった。


「…こ、わかった……ぅ…す、ごく…こわかっ…たの……」


今更のように体が震えだして止まらなかった。

自分が自分でなくなる感覚。

『撫子』なんて人間は最初からいないんじゃないかって。

必死に『楓』の強い感情に抗って、『撫子』の意識を保とうとした。

だけど、レイヤの想いはとても強かった。

彼は、深く、強く、カエデを愛していた。

『撫子』の意志よりも強く。

その想いに抗いきれなくて、『撫子』が小さくなって。

でも、慧が呼んでくれたから。

撫子、って強く真名を呼んでくれたから。

今、撫子はここにいられる。


「来るの……遅くなって悪かった」


慧の腕が少しだけ強く、撫子の体を彼の方に引き寄せた。