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Re: ナメコとワカメのふらいあうぇいっ ( No.215 )
日時: 2014/04/07 23:14
名前: いろはうた (ID: DYDcOtQz)

*「……落ち着いたかよ」


しばらくして、少し腕の力を緩めて慧がそうつぶやいた。


「う、うん。

 ごめんね、慧」


少し名残惜しい気持ちで温かい慧の体から離れる。

男性に抱きしめられたのは初めてのことだった。

今更のように心臓がどきどきする。


「…帰んぞ」

「ち、ちょっと待って!」


慧がすばやく立ち上がったのを見て、撫子はあわてて言った。


「あ、のね……実は、崖から落ちる際に、足、くじいちゃったみたいで…

 ゆっくり歩いちゃ…ダメ、かな?」


ぎゅっ、と慧の眉間にしわがよる。

ああ、怒らせてしまった。

そりゃそうだ。

こんな雨の中だったら、さっさと帰りたいに決まってる。

めちゃくちゃ不機嫌な顔で、慧は撫子の目の間にもう一度しゃがんだ。


「……どっちの足だ?」

「……え?」

「…さっさと見せろ」

「み、右足…」


顔は怒っているのに、足に触れてくる手はなんだか泣きたくなるほど優しい。

と、思っていたら、盛大に舌打ちされた。


「めちゃくちゃ腫れてんじゃねーか!!

 なんでもっとはやく言わねえんだよ!!」

「ご、ごめ…」

「…チッ」


ヤバすぎる目でまたも舌打ちされた。

…が、彼は突然しゃがんだまま、くるりと撫子に背を向けた。


「…慧?」

「……背中に乗れ」

「え、ちょ、ええっ!?」


叫んだら、ギッと音がしそうなほど睨まれた。

彼の顔が赤く見えるのは目の錯覚としか思えない。


「いいからさっさと乗れ!!

 はやくしねえと、長いこと歩けなくなるぞ」

「うん…」


おそるおそる彼の首に腕を回すと、ぐいっとと体が浮いた。

慧に、おんぶされている。

その事実に、鼓動がうるさいくらい高鳴る。

慧は撫子をおぶったまま、勢いよく駆け出した。

撫子を背負っているというのに、その足取りはみじんも揺らがない。


「…大丈夫?

 私重いのに…ごめ…」

「あ゛?

 おまえ、喧嘩うってんのか?」


…気遣ったら、物騒なことを言われた。


「馬鹿にすんなよ。

 おまえぐらい、どうってことねえ」

「ば、馬鹿になんかしてないって!」

「……っ!

 み、耳元でしゃべんじゃねえよ!!」

「え?

 う、うん…ごめん…?」



撫子は慧の背に揺られながら、雨にうたれる森を抜けた。