コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ナメコとワカメのふらいあうぇいっ ( No.240 )
- 日時: 2014/04/19 20:03
- 名前: いろはうた (ID: DYDcOtQz)
*「ねえ……慧。
もうひとつ、聞きたいことがあるの」
慧に出会ってから、ずっと彼に聞きたかったことだ。
「どうして、私たちを助けてくれたの?」
普通、見ず知らずの人間を助けたりなどしない。
見返りも求めずに、ヒトは危険もかえりみずに初対面の他人を助けたりなどしない。
「……」
慧は今度こそ手を止めて、撫子の顔を見た。
まっすぐに慧の獣のように瞳孔が縦にさけた瞳を見つめ返す。
「……おれは、捨て子だ」
突然ぽつりと慧はつぶやいた。
「赤ん坊の頃、森に捨てられていたのを茜の母さんに拾ってもらった。
だから誰よりも、他人に助けられることのありがたみをわかっている。
おまえらが白夜の野郎に襲われているとき、なんか自分の姿と重なって、ほっておけなかった。
……それだけだ」
慧の目が撫子からそらされた。
もとのように彼の手が包帯状の湿布を撫子の足首に巻き始める。
「村の連中は違う一族であるおれを、家族のように扱ってくれた。
おれは、もらった恩を返したい。
返さなきゃなんねえんだ。
異族であるおれを受け入れてくれた村のみんなに……」
「慧……」
のろのろと慧が顔をあげた。
「……んだよ」
「うまく言えないけど、その……慧は、慧だよ」
「……あ゛?」
「みんなは、異族を受け入れたんじゃなくって、慧を受け入れたんだと思うよ」
慧は、背負っていた。
恩を返す、という『義務』を。
「慧だから、受け入れたんだよ」
「……おまえに…何がわかんだよ……」
「何もわからない。
けど、私はそう思うよ」
この数日で、少しだけ慧のことを知ったから。
「恩を返したい、って気持ちは大事だと思う。
でもね、背負いすぎはよくないと私は思うよ」
「………」
慧は何も言わない。
言いたいことは言えて、撫子はほうっと息を吐いた。
「………寝ろよ」
「…え?う、うん」
慧は無言で撫子を抱き上げると、すでに敷いてあった布団に撫子を下した。
そして、首元まで掛け布団を引き上げ、ぐいぐいと撫子の首に押し付けた。
「け、慧……くるし…」
「あ゛?
こんぐらいしねえと体が冷えんだろうが」
めちゃくちゃ顔が怖いが、心配してくれているのだ。
慧は立ち上がると、足早に部屋の戸口に向かった。
「あ、慧……」
「……とう」
「え?」
「……ありがとう、撫子」
それだけ言い残すと、慧は部屋を出た。
慧の足音が遠ざかっていく。
撫子は慧に向かって伸ばしかけた手を力なく下した。
過去の夢にまた囚われてしまいそうだから、傍にいてほしい、などという言葉は、
慧のありがとうの一言でのどの奥から出なくなってしまっていた。