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Re: ナメコとワカメのふらいあうぇいっ ( No.244 )
日時: 2014/04/20 21:41
名前: いろはうた (ID: DYDcOtQz)

*慧が吠える半刻ほど前に、撫子は過去の夢から覚めたところだった。



〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜〜*〜*〜*〜*〜*〜



私は不治の病におかされ、力なく布団に横たわっていた。

かたわらには、私の騎士、ハヤテが座っている。

長くつややかな藍髪を頭の上でたばね、長い前髪の隙間から強い光を宿す瞳がのぞいている。

凛々しい面差しに、引き締まった体をした青年。

私が愛しく想う人。

だけど、決して想いを伝えてはならぬ人。

彼には————既に想い人がいるようだから。



「……ねぇ、ハヤテ」

「……どうした」

「まだ…好きな人がいるの?」


これは幼い頃からそうだった。


「…ああ」


何度同じことを聞いても、ハヤテは同じことを答える。


「まだ…好きなの?」

「ああ」

「他の女性など考えられないほど?」

「ああ」


胸を切り裂かれるような痛みを、目を閉じてやりすごす。


「…君は?」


突然問い返され、私は重いまぶたをゆっくり開いた。

涼しげなまなざしが、ただこちらに向けられている。

彼の瞳に映っているのが自分だけ、という事実にじわりと胸が熱くなる。

かさかさにかわいた唇をそっと開く。


「……いるわ」

「……」

「他の男性なんて考えられないくらい、好きな人が。」


それは……あなたのことよ。

そう、言えたらどんなにいいだろう。

そして、おれもだ、って応えてくれたらどんなに……

だけど、自分の命はそう長くない。

だから、想いは告げない。

ハヤテは早く私のことなんて忘れて、楽になればいいのだ。

その好きな女性と結ばれて、幸せになって、騎士という役目から解放されて……

しかし、なんて己は醜いのだろう。

私を忘れないで、と叫んでいる自分がいる。


「……はや、て……」


全力でなんとか腕を動かして、愛しい彼の手にそっと添えた。

ハヤテの手を握る力すら残っていなかった。

だけどそれでもいい。

彼に、つたえないと。



「今まで……ありがとう……。

 幸せに…なっ………て………」




愛しているわ。

さよなら。

言えない言葉をひきつれて、私は永久に意識を手放した。