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Re: 面倒くさがり上等です。 ( No.1 )
日時: 2014/07/17 21:50
名前: 雨 (ID: 5YqwrR3X)

*1* 

 桜ヶ原高校。
 初代校長は東大出身。だが、ゆるい校則のせいか、個性的で済ませるには度を過ぎた問題児達が毎年集まり、学力は県内でも最底辺を誇る。
 そんなところに入学したいと言った時は、お母さんは嘆いたし、先生は必死に他の高校を勧めた。
 それでもあたしは頑としてゆずらなかった。一番家から近い高校だし、問題児ばかりという評判も、ウワサが勝手に広がっただけだろうと気にしなかったのだ。
 その結果、受験をして見事に合格。
 幼なじみも一緒だったし、いい選択をしたと思う。きっと平和に過ごせるだろう。 
 
 なんて、甘かったらしい。
 ごくごく普通の入学式の長ったらしい話を聞き流し、ジュースを買ってから教室に入って絶句。
 こんな変な人達を一つのクラスにおさめるなんて、この学校の教師はバランスってものを知らないんだろうか。
 ゴスロリ服着て、黒ウサギのぬいぐるみ抱いてる女子に、眼帯してピアスをゴテゴテ付けまくっている男子。窓のふちぎりぎりに腰掛けてたそがれてる女子に、ダンベルもって筋トレしてる男子……などなど。
 つっこみ始めるといっぱいいっぱいになって面倒そうなので、スルー。

「沙歩」
 聞き慣れた声に振り向くと、幼なじみの佐伯光が立っていた。
 ブレザーの制服を、周りの変人さん達のように改造したり飾り付けることなく、しっかりと着ている。これだけでまともに見えるから不思議だ。焦げ茶色のセミロングの髪に、淡い黄色の花のピンを留めている。こんなところでも変わらない明るい笑顔に、ほんの少し安心した。
 その隣には初めて見る女子。
 ふわふわのロングの髪とやわらかい笑み、白いソックスがお嬢様っぽい。
「光。……誰、その人」
「そんな警戒しないの。この子、白鳥羽衣ちゃん。去年、吹奏楽の大会で知り合ったんだ」
 吹奏楽……あぁ、部活で。
 とりあえず名乗っておき、軽く会釈する。
「上野沙歩。どうも」
「はい。こんにちは。白鳥羽衣といいます。同じクラスなので、これからよろしくおねがいしますね」
 ふんわり笑った白鳥さんは、次の瞬間、実にブッ飛んだ質問をしてくれた。
「ところで光ちゃんと沙歩さんは幼なじみだそうですが、そういう関係にいっちゃってるんですか?」
「「はい?」」
 見事にハモったあたしと光にかまわず、白鳥さんはほおをピンクに染めた。
「友情から芽生える女の子同士の愛……。はぁぁぁ、素敵です」
「ーー光。なに、この人」
 かなり引くんですが。
 ぼそりとつぶやくと、光は苦笑いを返した。
「二次元とか、『そーゆーの』とか大好きみたいで。でも普通にいい子だよ、羽衣ちゃん」
「幼なじみっていうのがまた萌えますよね……。ノーマルな男女愛より、待ち受ける困難の多い同性愛の方を個人的には推奨します。周りに否定されてもやっぱり好き……。小さい頃から育んできた友情と愛が……」
「すいません一回黙ってください」
 ピンクに染まったほおを横に引っ張る。
 こんなお嬢様があんな話……。ギャップにビビる。
「あ、す、すみません。今まで身体が弱くて、お友達もあまりできなかったもので嬉しくって。ついつい妄想が」
 ほおを手でおさえて、恥ずかしそうに笑う。
 え、もうあたし友達認定ですか。
 ていうか、友達ができなかったのって、身体弱くてどうのの前に、妄想爆発させすぎて引かれただけなんじゃ……。
「あ、今度おすすめの本をお貸ししますね」
「結構です」
「びーえる、いえ。百合と薔薇はどちらが……」
 今更オブラートに包んでも遅いんで。ついでにどちらも好みじゃありません。
 ため息とともに天井をあおぐあたしの肩に、光の手がぽん、と置かれた。
「とりあえず仲良くしよ。羽衣ちゃん、これからよろしく」
「はいっ。沙歩さんも仲良くしてください」
「…………………………ん」

 やれやれ。
 選択を間違ったみたいだ。
 先生も来ないし、見た目からしておかしい人だらけだし、普通そうに見えた白鳥さんも、中身は愛がうんたらかんたら訳分かんないし。

 あたしが考えなしだった。
 だから、せめてできるだけ関わらないでくれ。どこだろうと、あたしは平和に過ごしたい。
 面倒くさいイベントやアクシデントなんかお断り。そんなもん全部スルー。
 あたしの信条を守らせてくれるんだろうか、このクラスは。