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- Re: 甘美な果実〜微かな吐息〜【短編集】【1/6更新】 ( No.101 )
- 日時: 2015/04/03 10:29
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
「血染めのドレスもよく似合い、2」
神内財閥は大手医療メーカーを経営している。そんな神内家の一人娘である私、神内澄香は周りに蝶よ花よと育てられてきた。
——そして、躾けられてきた。ピアノに茶道、華道、習字や英会話まで一通りにやってきたつもりだ。両親の言うことには何でも従ってきて、従順な「いい子ちゃん」を上手くやってきたと思う。
「どこにお嫁に行っても、どこからか婿を貰っても、いい女性でいなさい」という母の言葉に忠誠を示して生きてきたら、本当にこの時がやってきてしまった。
「——お見合い?」
「そうよ。澄香も十八歳になったことだし、相手はいつも仲良くさせて頂いている新城さんの息子さんなのよ」
「十八歳になったって……まだ十八歳なんですよ」
「いいじゃない。法律では許されているんだから」
そういう問題ではない、と言っても何も変わらないだろう。私は心の中で溜息をついてから精一杯の笑顔を作って母に言った。
「そうですね。お見合い、お受けします」
母は満面の笑みで頷いた。
夜になり、たくさんのお稽古で疲れた身体をベッドに投げるように飛び込んだ。
こんな風に誰かに操られて生きている身体なんて、私のモノではない。両親と立場に拘束されているただのお人形でしかない。それならいっそ、こんな身体どこかに捨ててしまおうか。
「——ならその身体、俺に寄こせよ」
そんな声が聞こえてすぐ、私の身体の背中に重みがかかった。その触り方や声で正体が分かってしまう。私に甘い麻痺を残していった朝の男だと。
「は、離してっ……」
「どうして? いらないんだろ、その身体。それなら俺のモノになれよ」
どうして、この男は私が心の中で思ったことが分かるのだろう。不思議なオーラを放った人だとは思っていたけれど、これでは超能力者の類になってしまう。
うつ伏せになり、背中に彼の重みがあるため動くことができない。やめて、と言っても彼は私を離しはしない。
——それなのに、どうして嫌だと思えないんだろうか。ただ、願っている。この人が誰も私を知らないところへ連れて行ってくれたらいいのに、と。
彼が背中から朝会った時のように首に触れる。私はその瞬間彼の動きを止めるように声を上げた。
「待って! 貴方は……何者なの?」
「俺か? 俺は……」
少しの沈黙が生まれる。扉が閉まり、静寂の中にいるとここだけ妙に現実感がある。早く口を開いてくれればいいのにと思った。
「——しがないヴァンパイアさ」
「え? ひ、あっ?!」
瞬間、首筋に鈍い痛みが走った。そこから全身へと広がっていく甘美な感覚。堕ちるのが怖くて無意識に顔を手で隠していたのだろう。彼が私の腕の自由を奪った。
「何するのっ……」
「聞かせて、お前の声。見せて、お前の顔。感じさせて……お前の全部」
そう楽しげに言う彼が憎いけれど、憎みきれない。このままこの感覚の中に浸っていたいと思う。身体全身に彼の熱が伝わってくるようだった。身体を少しでもよじらすと壊れてしまうのではないかという恐怖。それでもいいと思ってしまう恐怖が私を襲う。この人はヴァンパイアなのだと嫌でも感じてしまう。
「あ、あ……」
「何? もう限界?」
彼がそう言って私の身体から離れる。口元を軽く拭ってから私を見つめた。真っ白なシーツには紅い花弁が落ちていた。
私の身体はこのまま溶けてしまうのではないかというくらいに力が入らない。
「さて、食事も終えたことだし俺は帰るよ」
そう言って踵を返す彼を呼び止めた。力が入らない身体に鞭を打って無理やり立たせる。
「私にこんなことをした責任をどうやって取るの?」
彼は一瞬驚きを見せたが、にやりと笑ってゆっくりと私に近付いた。崩れ落ちて行く私の体を支えながら顔を近くに寄せて言った。
「覚悟があるのなら来いよ。俺の餌として生きて絶えろ。代わりに死ぬまで愛してやる」
その言葉を、本当は待ってた。
「……貴方の名前は?」
「葉月。よろしく、澄香」
葉月は私を抱き抱えて窓に近寄った。
このまま私をどこかに連れて行って。誰も知らない、自由な場所へ。
純白なままの何も知らない私なんかいらない。
赤く、紅く染まりながら貴方の隣にいたい。
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*神内澄香 Sumika Kamiuchi
*葉月 Hazuki
何となく雰囲気が危険になってしまった……
ヴァンパイアを書くということでディアラバやり返しました。ええ、幸せな時間を過ごしました←
この作品でスレ100突破、作品数30突破になりましたー!
今まで読んで下さった方々本当にありがとうございました。
今後とも頑張ります!
*この作品のタイトルは根緒様に頂いたものです。ありがとうございます!