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- Re: 甘美な果実〜微かな吐息〜【短編集】【1/6更新】 ( No.104 )
- 日時: 2015/01/18 13:52
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
「それでも、好きだ」
たとえ、君が僕のことを好きでなかったとしても。
俺の好きな人には好きな人がいる。それは俺ではない人物で、俺から見ても好印象しか持てない格好いい人だ。勝ち目がないとは分かっていながらも俺は心の中で想いを育んでいた。
そんな好きな人の好きな人——綾瀬に彼女が出来たらしい。その彼女もとてもいい人で校内では「最強カップル」なんて呼ばれている。そんなのクソくらえだと思った。俺の好きな人の気持ちを知らないとはいえ、酷い仕打ちだ。好きな人の悲しい顔を見るほど哀しいことはない。
——そんなことを考えながら俺は放課後に月歩の教室に向かった。
「……月歩? 帰らないのか?」
教室に足を踏み入れると、真っ赤な夕陽の光が、席に座って一人窓の先を見ながらたそがれる月歩を照らしていた。憂いを帯びた表情は綾瀬の面影を探しているのか今にも涙が零れてきそうだった。
「……帰るけど、もう少し」
月歩はこちらを見ずに小さくそう答えた。俺は月歩の一つ後ろの席に座った。何も言わないでいると月歩が震える声で言葉を少し詰まらせながら話し始めた。
「綾瀬君、彼女出来ちゃったんだね……当然か、あんな格好いいんもん。素敵な彼女が出来るよね」
「月歩だって綺麗だし」
そう言うと、月歩は自嘲するように微笑んで初めてこちらを向いてくれた。目は赤く腫れていて、俺が来るまで泣いていたのだろうと思った。
「ありがと、悠は優しいね」
俺が本当にそう思っていることに気付いていないのだろう。適当にあしらわれる。俺は少しムキになって声を張り上げた。
「嘘じゃねえからな。綺麗で、可愛くて脆くていつも守りたいと思ってる」
月歩が戸惑うようにこちらを見上げる。何が起こっているのか分からない状況だろう。俺もよく分かっていない。口に出すつもりなんてなかったのに。しかし、今の月歩の心の隙に付け込めば月歩は俺に振り向いてくれるかもしれない。そう考えてから月歩の真っ赤になった目を見た。目を真っ赤して泣くほど好きな人に失恋して自分に振り向いてくれるとは思えない。胸が締め付けられる痛みにこらえながら俺は満面の笑みを作った。
「……俺、ずっと月歩のこと好きだったんだ」
「え……」
月歩が心底驚いた顔をしてから、手を口元に持っていく。少し考えるような素振りをしてから勢いよく頭を下げた。
「悠、ごめん……! 私、悠の前で綾瀬君の話たくさんしてた……!」
「いいんだよ、ただ言いたかっただけだから」
「……ごめんね、私、悠のことは……」
本当に申し訳そうな顔をしながら月歩は悲しい顔をした。
違う、違うんだ。そんな顔をしてほしかったわけじゃない。
それなら、嘘を吐こう。君のためならどんな嘘でも出てくるよ。
「言っただろ『好きだった』って。過去形だよ。今は月歩は大事な大事な友達だ」
月歩が少しためらうように「そうなの?」と聞いた。俺はゆっくりと頷く。
「月歩が泣きたいときに隣にいられる友達が一番心地いいんだ」
そう言った途端、月歩が俺の前で初めて涙を流した。俯きながら微かな嗚咽を漏らす。俺は迷いながらも月歩の頭に自分の手を置いた。
「友達」なんて綺麗事を言いながら、本当は心のどこかで月歩の想いが果てることを祈っているんだ。俺に抱きついてくれるような存在になってほしい、と。分かっている。そんなことが叶うはずないと。それでも、淡い望みを持つことの代償が失恋なら安いものだろう。
たとえどんなに虚しい恋でも、それでも、君が好きだ。
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*立山悠 Haruka Tateyama
*黒木月歩 Tsukiho Kuroki
*綾瀬雅則 Masanori Ayase
月歩は罪な女ですわ……
悠は祈ることしか出来なくて、それでも振り向いてはくれなくて。
好きな人と仲良くなると一番の友達になってしまって恋愛相談とか受けたりしますよね。そうなると、イライラするのに彼と関わりたいからアドバイスとかしちゃって。
「友達」で満足しているはずなのに友達の中で一番になりたいって思っちゃったり。
恋愛には痛みがつきものですね……。