コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 甘美な果実〜微かな吐息〜【短編集】【3/8更新】 ( No.11 )
- 日時: 2014/04/29 20:11
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
「束縛と独占」
私はいつも、君を想ってる。
いつも、君を。君だけを見て想ってる。
「山岸君、委員会のプリント配るから手伝ってくれる?」
「ああ、うん」
クラスの女の子が彰吾に声をかける。同じ委員会ならしい。ああ、二人で協力し合ってる。笑顔を見せている。
私は自分の席に座りながら、彰吾達に配られたプリントを見つめる。思わず、プリントを握る掌に力が入ってしまう。
『はやく離れて』そう言いたかった。
プリントを配り終わると、私は真っ先に彰吾の元へ向かう。
「彰吾、今日一緒に帰れるよね?」
「帰れるよ。爽李も今日部活ないの?」
「うん。先生出張だから……」
会話の最中、担任教師から「山岸」と声がかかる。彰吾は私から目を離して「はい」と返事をした。ごめん、という手の形をして、またすぐ言ってしまう。止める間もなく、彰吾は私から離れて行ってしまった。ただ、それだけのことだって分かってる。仕方がないって分かってる。なのに、こんなにも「嫌だ」と思ってしまう。こんな私はおかしいのだろうか。
「また椿原さん、山岸と話できなかったな」
「あんな可愛い彼女出来たっていうのに、山岸も椿原さんに無関心だよな」
そんな声が周りから聞こえてしまい、余計苦しくなる。「無関心」。付き合っているのに、彰吾は私に関心さえ持ってくれないのだろうか。
話しかけてきたら話す。見てきたら見返す。触れたら触れ返す。そんなのは嫌なのに。それだけなんて、足りないのに。
いつの間にか、放課後になった。玄関を出て、彰吾が来るのを待つ。数分で彰吾は来た。息を切らしている。わざわざ走って来てくれたのだろうか。そう思うと、申し訳ないと思いつつも嬉しくなる。
「遅れてごめん!」
「ううん、大丈夫」
そう言って、歩き出す。
担任の悪口、最近カップル成立した男女の話、たくさん話はするけれど、どれも私が話題を振っている。
「彰吾君、ばいばーい」
「あ、じゃあな」
知らない女の子が彰吾に声をかける。名前で呼んでいた。私が、彰吾の彼女なのに。あの子は、彰吾に愛されているわけでもないのに。
「……彰吾、今の誰?」
「部活のマネージャーだよ。爽李は知らないんだっけ」
知らない。彰吾の部活のことなんて知らない。
なら、あの子はただの「マネージャー」なんでしょう? 私は、彰吾の何? 「彼女」じゃないの?
何で、こんなことばかり考えてしまうのだろう。
いつの間にか、私の家の前に着いていた。いつも、彰吾はここまで送ってくれる。
「じゃあな、爽李。また明日」
「し、彰吾……!」
思わず、呼びとめてしまった。彰吾は振り向きかけたが、私の方を見つめなおした。
「——好き」
出てきた言葉はそれで、簡単で、一番想いが伝わるであろう言葉であった。
「……うん、俺も。好きだよ」
彰吾は優しい笑みを浮かべながら、言葉を返してくれる。好きと言ってくれているのに、その言葉は私には届かない。その「好き」は私に向けてくれた私だけの言葉なの?
「……爽李?」
顔を覗きこまれながら名前を呼ばれて、やっと自分の現状に気付いた。音もたてず、涙を流していた自分に。
「どうした? 今日、らしくない。何かあったか?」
らしくないって? これが、私なのに。
「彰吾、彰吾、彰吾……!」
すがりつくように彰吾の服の裾を握る。彰吾は黙って、先を言わせるように私の頭を撫でていた。
「ねえ、私おかしいのかな? もっともっとって思っちゃうの。私だけの彰吾じゃないと嫌なの。女の子と話す度に不安になる」
思っていたことをすべて吐き出す。最後には、自分を表すとてもいい言葉を吐いた。
「彰吾を、独占したり、束縛していたいの」
気持ち悪いって自分でも分かってる。こんな束縛が激しい女、呆れるかもしれない。でも、思ってしまうの。
「……変な女」
最初に出てきた言葉に返す言葉もない。
「でも、束縛されるのは嫌いじゃない」
「え……」
「代わりに、俺にも爽李を独占させて?」
笑顔で言ってくれた彰吾。
ねえ、その言葉を信じさせて?
お願い、ずっと私を愛していて。
君は私だけのモノだから。
**********
*椿原爽李 Sari Tubakihara
*山岸彰吾 Shogo Yamagishi
こんなに男の子の名前を連呼するヒロインを書いたのは初めてでした笑
変だし、嫌われるかもしれないけれど、どの女の子にもこういう気持ちって存在してると思います。