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Re: 甘美な果実〜微かな吐息〜【短編集】 ( No.111 )
日時: 2015/05/02 13:58
名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)

「狂愛シンドローム」

 終わりの見えない暗闇。深さが分からない愛情。
「アイシテル」という名の狂気——


「……食事を持ってきたよ、ホノカ」
「……」

 重い扉が開き、名前を呼ばれる。
 一ヶ月前は扉が開いたその瞬間に脱走しようとしたが、もうそんな気力もない。動くこともできず、私は柔らかなベッドに腰掛けるように俯いていた。返答すらも出来ない。

「もう、声を出すことも出来なくなっちゃったの?」

 彼が私に近付き、そっと頭を撫でる。いつからだったろうか。この優しい触れ方に喜びも恐ろしさも通り越して何も感じなくなったのは。

「食べないと死んじゃうよ? ほら、少しだけでも食べて、ホノカ」

 湯気が出ているのは温かなクリームシチュー。ここ三日間は何も口にしていない。「食べないと死んじゃう」何ていい言葉だろう。食べないだけでこの監獄を抜け出せるのなら、例え命を失ってもいい。

「我儘な子だなあ……他に望みはある? 出来ることだったら何でもしてあげる」

 彼——美月は柔らかな笑顔を浮かべながら俯いている私の顔を覗き込んだ。言葉を発したら、早く命を削ることが出来るだろうか。

「……美月、ここから、出して……」
「またそれ? でも、君が悪いんだよ」

 子供を諭すような口調で美月は続けた。

「僕以外の男と話しちゃ駄目だって言ったのに、ホノカがそのルールを破ったんだから」
「あれは、道を聞かれただけで……」
「道を聞かれたら男と話していい、なんて一言も言ってないよ?」

 ぞっとする程冷たい目で私を睨む。その冷たさが鳥肌を立たせるが、慣れは怖い。もう、何とも思わない。

「美月、お願いがあるの……」

 震える声で私は続けた。「なあに?」と美月が笑顔で言った。こんな願いを持つなんて思っていなかった。底が見えない程深い深い愛をささげてくれる美月に最後の願いを。

「私を、殺して……」

 そう言ってすぐ、私の視界が歪む。ずっと食事をしていなかったせいの貧血だろうか。いっそこのまま死ねたら、私は幸せなのに。崩れていく私の身体が支えられる。ああ、重い瞼を開ける時がまた来るのだと感じた。冷たい身体が私を包む。そこで目の前が真っ暗になった。


「……うん、殺してあげるよ。君の精神をズタズタに、ね」

「この檻の中で、君は僕のためだけに呼吸をしていてね——」




**********
*ホノカ Honoka
*美月 Mzuki

 コメライってどこまでが許されるかな、と最近悩み中。
 きっと美月はずっとホノカを殺しはしないです。
 精神だけを殺して、嫌でも自分だけを見るようにするんだろうなと思います。
 実はこういう話書くの大好きです……←