コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 甘美な果実〜微かな吐息〜【短編集】 ( No.12 )
- 日時: 2014/03/25 14:48
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
「妖艶な薫」
『色気が漂うモデル国民投票№1! 榊深雪!』
そんな小見出しが目に入る。何気なく本屋を巡っていた。オシャレな雑誌が並ぶ中、一際大人な薫を覗わせる女が表紙を飾っている雑誌を見つけ、何となく手に取ってしまった。それは女性が読むファッション雑誌だ。
「何気なく」巡って入るものの、本当は心のどこかで深雪を探しているのかもしれない、と思うと少し自分が気持ち悪い。
結局、雑誌だけを持って会計レジに向かった。店員に何か思われたら嫌だと思っていたが、バイトらしき女店員は僕が想像したことを思うような表情はしなかった。何も思わなかったのか、それともポーカーフェイスなのか。いや、こんなことを勝手に思ってる時点で自意識過剰なのかもしれない。
家に戻り、雑誌を袋から取り出すと、ページをめくる前に、本が僕の手から消え去った。一瞬思考回路が停止する。
「直人、私が載っている雑誌買ってくれたんだ」
嬉しそうな、はしゃいだ声が後ろから聞こえる。振り向くと、深雪が雑誌をペラペラとめくりながら笑顔で立っていた。
「深雪! 何で家に入れて……」
「鍵が開いてたよ。まるで入ってくれって懇願されているみたいだったから入っちゃった」
自分のツメが甘いことを後悔した。
深雪は僕の幼馴染で、高校生ながら雑誌の専属モデルを務めている。その人気は絶大なものだが、テレビ出演などは一切控えている。深雪いわく、テレビなどに出ると、「榊深雪」のイメージが崩れてしまう為、写真の中だけの「榊深雪」でいるためだそうだ。
「ねえ、すごくない? 私、№1だよ?」
「うん、そうだね。深雪はやっぱりすごいよ」
思った通りのことをそのまま言ったのだが、深雪はお気に召さなかったのか、不満げな顔をして僕を睨んだ。
№1、確かにすごいことだけど、僕にとってはあまり嬉しくない。ずっと、深雪に片想いしてきた。皆の深雪になってしまったため、告白なんて出来ない。いや、たとえモデルという職業をしていなくても、弱虫の僕が告白したかというとそこは微妙なのだが。
「直人はさ、私を見て何も思わないの?」
「は? そんなこと言われたって……」
何も思わないわけがないだろう馬鹿野郎。
雑誌で見る深雪はとても高校生には見えなくて、露出の高い服を着たりして、これを全国の男が見るのかと思うと腹が立つ。しかし、僕にそんなことを言う権利はない。
「別に、深雪を見て何か思うことはないよ」
こんなことを思っているなんて死んでも悟られたくない。
そう思っていると、急にソファに押し倒される。僕の上に深雪が乗っている。これはどんな状況なんだ。
「直人は私を見て何も思ってくれないの? ドキドキしたり、変なこと想像したり、触れたいと思ってくれたことはないの? 私は直人にそう思ってもらいたいからあんな格好だってしているのに」
深雪は表情は泣きそうだが、声は怒っていた。
僕に触れてほしい?
それは、つまり……
「深雪は、僕のこと……」
「好きだよ」
僕の言葉を遮り、深雪が言う。
思ってもいなかった。それに、その言葉は僕が言うべきものだったのではないか。
「あの……僕も好き」
「……え?」
深雪に乗られたまま告白するなんてシチュエーションは格好悪すぎるが、そんなことは今は関係ない。
「触れていい?」
「直人……確認するとか弱虫」
冗談ぽく深雪に言われ、笑われた。しかし、当然だろう。
薫り立つ女らしさに魅せられ、触れたいけれど、気高い彼女に触れていいのか分からなくなる。
「いいよ、触れてほしいの」
少し照れくさそうに深雪が言う。それは、僕だけに見せてくれた「榊深雪」だった。
軽く口づけをする。そこまでで終わろうと思った。しかし、深雪の顔を見たら、どうやら僕は壊れてしまったらしい。
胸元の黒いリボンに手を伸ばす。
「え、ちょっと待って! 直人……!」
「駄目。後悔したって遅いから」
深雪の焦った顔が可愛い。
「深雪が触れてほしいって言ったんだよ? 身体の隅々まで、触れてあげる。泣いたって、逃げたって、痛くても容赦しないから」
妖艶な女は、僕の前でだけ、可愛い女の子でいてくれる。
その顔は、僕だけに見せて。
**********
*五十嵐直人 Naoto Igarashi
*榊深雪 Miyuki Sakaki
書いた後でやばいと思った作品。
この後は皆様の御想像にお任せします。
深雪をどうしようとそこは自由です笑