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- Re: 甘美な果実〜微かな吐息〜【短編集】 ( No.120 )
- 日時: 2015/05/22 20:32
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
「紅い印〜After Story〜」
「里倉先生、好きです」
もう何度この言葉を聞いただろうか。
可愛い顔をした松木卓也君が満面の笑みを浮かべながら言ってくれる言葉を。だけど、私は冷静に返さないといけない。例え今の自分の気持ちがどうであろうと。
保健室で消毒液の補充をしながら、私は彼の顔を見ずに言った。
「あのね、松木君。私と貴方は教師と生徒という関係なの」
「だから何ですか? 俺、先生といられるなら何も気になりませんよ」
「……!」
真剣な声色でそう言う彼に少し動揺しながらも私は言い放つ。
「と、とにかく駄目! 生徒に手なんて出すわけないでしょ!」
松木君は溜息を吐きながら「失礼しました」と言って保健室を出て行った
……火照った顔は見られていないだろうか。彼の純粋過ぎる気持ちに嬉しく思うのもある。だけど、私は養護教諭という立場なのだ。どうしようと無理なものは無理だ。消毒液の蓋を閉めながら溜息をついた。
次の日の昼休み、彼はまた保健室に来て「好きです」と言った。私はズキズキとする胸の痛みに気付かない振りをして言う。
「あのね、何回も言うけど——」
「“教師と生徒”じゃなかったらいいってこと?」
「なっ……」
「そういうことでしょ?」
彼に見透かされたようで怖くなる。自分の気持ちが漏れていることがとても背徳的で、ゾクリとした。
「俺が生徒だからって理由で俺から離れるなんて——許さない」
思わず顔が火照る。彼は私を見てふっと笑い、胸まである長い髪をさらりと撫でるようにして触れた。
「俺、今年で高三だから来年は卒業です。その時はもう生徒じゃないから、覚悟していて下さいね」
「——美紅先生?」
松木君は不敵な笑みを残しながら保健室を出て行った。今まで気を張っていたのが急に緩んだからか、身体の力が一気に抜けた。
里倉美紅、二十六歳。職業、養護教諭。
十八歳の少年に恋に落ちるはずがない——と信じたいお年頃。
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*里倉美紅 Miku Satokura
*松木卓也 Matsuki Takuya
「紅い印」のAfterstoryでした!
振り返ってみると一年以上前の作品なんですね。
美紅先生のやるせない気持ちを書くのが楽しかったです。
保健室って色んなロマンがありますよね笑
Afterstory前はこちら
「紅い印」>>07