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- Re: 甘美な果実〜微かな吐息〜【短編集】【5/22更新】 ( No.124 )
- 日時: 2015/05/31 12:00
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
「生徒会長の犬〜AfterStory〜」
「香純ちゃん! 海稀会長の彼女になったの?!」
私が副会長として所属する生徒会の書記の男子生徒が生徒会室に入ってきた瞬間、そう叫ぶ。教室に声が響くと、その場にいた生徒会のメンバーが一斉に私を見た。
そして、私は海稀を憎む。この場に自分しかいないということは、注目されるのは私だけだ。今日は用事があるからと海稀は先に帰った。逃げたな……と感じながらぎこちない笑顔を浮かべて私は頷いた。
「えーっ! おめでとうございます!」
「あ、ありがとうございます……」
「やっぱり会長、香純ちゃんのこと好きだったんだねー」
「やっぱり」という言葉が付くんだ、と少し嬉しくなった。
——しかし、こんなにも注目されると少し居づらい空気になる。海稀は会長だし、人気者だから仕方がなのだけれど。私は席を立ち、生徒会室から逃げるように扉に近付いた。
「ねえねえ、会長って香純ちゃんにどんな感じなの?」
扉に手を触れた時に、これが最後というような問いが投げられる。皆が黙って(笑顔を浮かべながら)私を見つめる。
「飼い主と犬、って感じですかね……お疲れ様でした」
扉を開き、廊下に出て解放されると、すぐさま閉めた扉の先からざわざわと動揺しているような声が聞こえたが、幻聴だと思おう。
幼馴染である海稀の家を二軒過ぎた自宅の前まで来た時、自宅の扉から背の高い男が出てきた。あ、と思って見つめると彼も私を見てから、笑った。
「よー、香純」
「良平君? 久しぶりだね!」
彼——伊藤良平は専門学生で私の従兄妹である。その端正な見た目と頭の回転を生かして要領よく執事のアルバイトもしているらしい。彼に会ったのは一年近く前だ。その間に髪色が黒から茶色になっているが。
「で、海稀君とはどうなってんの? 昔からお前好きだったじゃん」
「あ、つ、付き合うことに……なりました」
「おー、やったな!」
良平君が私の頭を乱暴に撫でる。髪がどんどん崩れていくが、良平君は優しく梳いてくれた。こういうのが昔から女の子にきゃーきゃーされる原因なんだよな……と思いながら良平君の話を振った。
「も、もう……良平君も彼女出来たんでしょ? この前メールで言ってたよね。どんな人なの?」
良平君は少し考えるような素振りをしてから言った。
「他人に干渉されるのが嫌いで冷静なくせに、時々かまってもらいたくて寂しそうにしている面倒くさい女」
そう言いながらも嬉しそうに笑顔で話す良平君を見て本当に好きな人を見つけたんだな、と少し嬉しくなった。
「……大好きなんだね、その人のこと」
「——どうだろうな」
照れ隠しなのか曖昧な言葉を吐く良平君が新鮮で可愛く思える。私はふと思ったことを言う。
「彼女さんに悪いし執事のバイトやめたらいいのに」
「いや、美鶴がヤキモチ焼くの見てるの楽しいから」
良平君特有の意地悪い笑顔を浮かべながら言った。美鶴さん、というのか。しかし、こんな男に愛されるとは今後色々な意味で大変そうだな、と感じたのは秘密である。
次の日、朝一緒に登校しようと海稀の家を訪ねる。少ししたら海稀が出てきたが、何故かすごく機嫌が悪そうだ。私を見ながらも睨みつけられている。
「……どうしたの?」
内心少々怖かったが、聞かないわけにはいかない。海稀がいつもより低い声で呟いた。
「昨日の男、誰? 俺以外の男に何触られてんの?」
「え?」
昨日の男? 触られた? 思い当たる人物は一人しかいないが、しかしそれは海稀も知っているはずの——
「良平君のこと? 私の従兄妹の……」
「——は? 良平さん?」
「うん、昨日私の家に来てたの。髪色が変わってたから遠くからじゃ分かりにくかったかもしれないけど……」
家の前で話していたのを海稀が見かけたのだろうか。だけど、良平君を見間違えるなんて海稀に限ってありえない。——そう思った時、昨日良平君が口にした「ヤキモチ」という言葉がふと蘇った。見間違えるほど焦ったのだろうか、海稀が。
——それは、何故?
「……あの、もしかしてヤキモチ——」
「阿呆」
言い終わる前に遮られてしまった。溜息をつかれて私は言わなきゃ良かったと後悔する。
「ご、ごめ——」
「自分の恋人に他の男が近づいてるの見たら誰でもこうなるだろ」
その言葉に耳を疑う。海稀は少し顔を赤くして私の目を真っ直ぐに見つめた。それが嬉しくて、海稀の「好き」という気持ちが感じられてとても心地よかった。
「……何ニヤニヤしてんの?」
「え、そ、そう?」
つい口元が緩んでしまっていたのだろうか。隠しきれない喜びが溢れてしまっているらしい。
自分が海稀よりも優位に立っていることがすごく嬉しかったのだ。
「——お仕置きだな」
「……え?」
一転して、不穏な空気が流れ始める。私は何を言われるのかと不安でばくばくと心臓が脈打ち始めた。俯きがちに次の言葉を待つ。
「今日は俺から離れないこと。それくらい、できるよな?」
驚きで勢いよく顔を上げると、海稀が優しい笑顔を浮かべながら言葉を続ける。
「だって、香純は俺の彼女なんだから」
——そんな甘い“お仕置き”から逃げられるはずもないのに。
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*相内香純 Kasumi Aiuchi
*槙浦海稀 Kaiki Makiura
「生徒会長の犬」のAfterstoryでした!
「恋とか愛とか執事とか」の良平も登場させてみました。
こういう他作品同士のつながりをやってみたかったので、この場でやれて楽しかったです!
海稀も少しずつ香純に素直になっていくんだろうなと思います。
攻めるのは変わらないと思いますけどね笑
Afterstory前はこちら
「生徒会長の犬」>>96