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- Re: 甘美な果実〜微かな吐息〜【短編集】【3/24更新】 ( No.21 )
- 日時: 2014/04/13 11:45
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
「戸惑い」
永遠に、片想い。
そう思っていた。
ねえ、期待させるようなこと、させないで?
「あ……」
隣の席に座る島本君が、身体を捻じらせて机の中を覗く。さっきから何度もやっている行為だ。
島本君は一度ため息をつくと、私の方を見て手を合わせながら言った。
「ごめん! 北条さん。教科書忘れたから見せてくれる?」
「あ、うん。そんなに悪そうにしなくても大丈夫なのに」
私に頼む彼の表情は本当に申し訳ない、という気持ちが伝わってきて、逆にこっちが申し訳なくなるほどだった。
「だって……北条さんに迷惑かけらんないじゃん」
そんなことを言うなんて、反則ではないだろうか。
何でもないような振りをして、笑いながら私の机と彼の机の境界線を塞ぐように教科書を広げた。
このまま、この線も消えてしまえばいいのに。
そんな風に思うこともあるけれど、無理だって分かっているから心に秘めておく。島本君の好きな人は、私ではない。そういう予想を立てている。
こんな思いをするなら、いっそのこと彼の好きな人が誰なのかを知っていれば良かったのかもしれない。それを理由にして、諦めてしまえば良かったのに。
彼の好きな人は、誰?
煩悩を振り切って、教科書を見る。バランスが取れなくて、私は自分の筆箱を教科書を支える重石として、教科書の真ん中に置いた。
しかし、私の筆箱では軽過ぎたらしい。
筆箱が前のめりに倒れていく。咄嗟に手を伸ばす——と、同時に彼の手も伸びる。
筆箱を、私の手と彼の手が掴んでいる。
一瞬の沈黙が流れ、安定した場所に筆箱を置き、手が離れた。
彼は、自分の筆箱を代わりに置いた。それは動かない。それなりの重さがあるのだろう。
何も言えない。嬉しさより、戸惑いの方が大きい。
彼の表情を覗くと、少し顔を赤らめて頬杖をついていた。
声が出ない。嬉しくて、戸惑って。
どうして、そんな顔をするの?
惑わせないで。
期待させないで。
——君の好きな人が、私かもしれない、なんて。
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*北条由佳梨 Yukari Houjyo
*島本龍 Ryu Shimamoto
私だったら、好きな人の好きな人は、自分じゃなくてもいいから知っておきたいです。
何というか「諦める理由」が欲しいんですよね……
ハッピー物語なのに、暗い話をしてしまった……すみません!