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- Re: 甘美な果実〜微かな吐息〜【短編集】【4/7更新】 ( No.26 )
- 日時: 2014/04/13 11:44
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
「泡沫—うたかた—」
たとえ貴方が私を見てくれなくても、私は貴方を見ていたいと思うのです。
「由良! ちょっと……」
同級生の「おはよう」という声が飛び交う中、幼馴染の蒼に手招きされて、おとなしく私はついて行く。
「どうしたの?」
「やべえ。今週の松永さん、めっちゃ可愛くね?」
私に話しかける蒼の視線は私に向けられてはいなかった。そんなこと、知っているけれど、やはり少しだけ胸が痛む。
蒼の視線の先には、松永さんが友人と談笑している姿があった。私には、先週と何も変化がないように見えるけれど。
「……週明けでしばらく会っていなかったから、そう見えるだけじゃないの?」
「お前の目は節穴だな。どうみても可愛いだろう」
そんなこと女の私に言うな。
心の中で呟きながら、私は自嘲するように苦笑いした。
松永さんが可愛く見えるのは、好きだからでしょう? 知っている。蒼のことなら、何でも知っている。
「なあ、由良……」
「何?」
自分の気持ちを知られたくなくて、どうでもいい、という風に言い放つ。「松永さん」という名前が蒼から発されるだけで苦しいのに、それ以上に何があるっていうの。
「俺、告白しようかな」
「——は!?」
思わずとぼけた声が出てしまう。
「松永さん、彼氏いないだろ? 友達からお願いしますって言えば——」
「駄目!」
言ってから、やってしまったと気付く。こんなこと、私が言えるような立場ではない。
蒼も不思議そうに私の顔を覗きこんでいる。何も、こんなに強く否定する必要はなかった。
「……松永さん人気あるし、もう少し仲良くなってから告白した方がいいと思う」
無理があったかな、と思いながら蒼の顔を見ると、蒼は納得したような表情で「そうだな」と言った。
蒼の言葉に胸を撫で下ろすと、蒼が少し苦しそうな笑顔で私の頭を軽く撫でてから、自分の席へと戻って行った。
どうか、お願い。私の気持ちに気づかないで下さい。
卑怯な言葉を吐いて、貴方を留めておく私を許して下さい。
もう少しだけ、手を伸ばしたら君に届くかもしれない、という淡い期待を持たせて下さい。
貴方を好きでいる気持ちを奪わないで下さい。
もう少しでいいのです。もう少しだけ、貴女を想える泡沫の時間を私に下さい。
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*立樹由良 Yura Tachiki
*北川蒼 Aoi Kitagawa
*松永有名 Arina Matunaga
久しぶりの片想い。
「泡沫」は『うたかた』とも読みますし、『ほうまつ』とも読みます。
儚くて、消えやすいモノの例えによく使われています。
片想いは泡沫だよなーといつも思ってます。