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Re: 甘美な果実〜微かな吐息〜【短編集】【4/17更新】 ( No.33 )
日時: 2014/04/29 20:19
名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)

 「嘘つき男は女に堕ちていく」

「私、友貴君と付き合えるなんて夢みたい!」
「そんなの、僕もですよ」

 俺は今日一番の笑顔で目の前でアイスココアを飲む女に笑いかけた。
 小山内春菜。大学で出会った一つ年上の彼女。優しくて、上品な女だ。ちなみに、俺の中でのランキングは五番目くらい。
 自分で言うのもどうかとは思うが、俺は顔は整っている方だし、要領も良かった。だから、寄ってくる女は星の数ほどいた。

 現在、八人の女性と交際している。大学生、高校生、社会人とたくさんいるため、時間を効率よく過ごすことに毎日必死だ。
 よく女は「どうして何人もの女と付き合うの?」と聞いてくる。別に隠しているわけではないが、偶然、他の女と歩いている時に合ったしまったのだ。
 好きな女が、何人いてもそれはこっちの自由ではないのだろうか。そもそも、俺が薄っぺらい男なのだと気付くことが出来ない女に問題があるのではないだろうか。

 春菜さんと別れてから、俺は電車に乗る為に駅へ向かう。次は、社会人の女性とのデートの約束だ。
 気分が上がっていたせいか、前を注意深く見ていなかったのだろう。駅という人が集まる場所なのに、気を付けていなかった為、誰かと衝突してしまった。
 


「す、すみません!」

 俺が謝る前に下から声が聞こえてくる。ペットボトルを持った女性。俺のジーンズの裾が黒く変色していた。きっと、ぶつかった拍子に水が零れてしまったのだろう。
 上目づかいで俺を見てくる彼女は、黒髪ロングにほぼ素顔のナチュラルメイク。日本美女という感じだった。年齢は同じくらい——二十歳くらいだろうか。
 つい、女性と会うと観察してしまう自分の癖をここでも発揮してしまう。

「いえ、俺がよそ見していただけですから。すみません」

 俺は愛想良く笑みを返した。
 すると、彼女は安心したように微かに笑い、俺の目を見て言った。

「……お優しいのですね」

 その柔らかい笑顔に不覚にもときめいてしまう。今まで付き合ったことのないタイプだった。九人目の彼女にしてみたい。

「でも、やっぱりお詫びしたいので、連絡先教えて頂いてもよろしいですか?」

 何と、相手の方から誘いがあった。天然なのだろうか。

「ああ、はい」

 そう言いながら、携帯を取り出す。赤外線通信をしながら、俺は彼女に名前を聞いた。

「林原梨彩です」
「りあ……可愛い名前ですね。俺は、北川友貴っていいます」
 
 
 

 その時は、軽い気持ちだったんだ。
「どうせ、この子もすぐ俺に堕ちるだろう」と思ってた。だから、会ってすぐ自分の部屋に呼んだ。彼女も嬉しそうに俺の後をついてきた。
 
 梨彩は部屋に上がり、俺はお茶を出す為にキッチンへ向かう。

「お茶じゃなくて、コーヒーがいい」
「え?」

 梨彩はさっきまでの優しい目つきと違い、厳しく見下すような目つきをしていた。

「コーヒーがいいって言ってるの。私、お客なんだから言うこと聞いてくれるわよね?」
「え、ちょ……梨彩、だよね?」
「梨彩じゃない」

 彼女はソファに座り、足を組むと妖艶な笑顔で言った。

「林原梨彩は偽名。本名は、林理彩」

 りさ? 状況が全く理解できない。何故、彼女は偽名を使い、俺に接触してきたのか?

「毎週土曜午前は喫茶店「ドロップ」で若い女性と待ち合わせ。その後は隣町に行って、少し年上の女性とデート」

 彼女は、俺の土曜日のスケジュールを完璧に当ててみせた。

「何でそんなこと知って……!?」
「毎日違う女を連れていたら気になりもするでしょう」

 いかにも当然だ、というように振舞っているが、当然じゃないだろう、それは。

「今日は本当に滑稽だったわ。自分が騙していると思っているのに、実は騙されているのは貴方の方なんだから」

 とろけるような微笑みを浮かべながら彼女は俺に言った。つまり、俺をはめる為に嘘をついたということか?

「ねえ、騙される気分はどう? 騙す方は快感を得る。騙されていても知らないうちは幸せな気分に浸れる。でも、真実を知った時、屈辱で一杯になるのよ」

 厳しい目をして彼女は俺に告げる。

「そ、そんなの知らねえよ……騙される女の方が悪いんだろ!」

 そう言ってハッとした。騙されたのは、俺の方。悪いのは、俺?
 言質を取った喜びに浸りながらに理彩は言った。

「私を落としたいのなら、本気でぶつかってくることね」

 悔しい。
 理彩は気付いているのだ。こんなに屈辱的な気分を味わった俺が、厳しく、妖艶な笑みを浮かべる理彩に堕ちていることが。

「……理彩にも、屈辱を味わさせてやるよ」

 最低な捨て台詞を俺は吐いた。




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*林理彩(林原梨彩) Risa Hayashi(Ria Hayashibara)
*北川友貴 Yuki Kitagawa
*小山内春菜 Haruna Osanai
 
 

 どっちもどっちな二人ですね……
 個人的に、理彩みたいな強気な女性は好きです。
 皆様には悪評受けそうな作品だと自分で思っています(書くのは楽しかったです)