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- Re: 甘美な果実〜微かな吐息〜【短編集】 ( No.41 )
- 日時: 2014/04/27 18:40
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
「それだけの関係」
私たちは「それだけの関係」。
それ以上でも、それ以下でもない。それ以上にも、それ以下にもならないであろう私たち。
だけど、それが一番丁度いい。
「……ごめん、遅れた?」
昼休み、私はいつもお弁当を食べ終わってから屋上へと向かう。彼と会う為に。今日は彼の方が先に着いていた。謝りながら少しだけ早歩きをして彼の隣に静かに座る。
「いや、待ってないよ」
無表情でそう言う彼は青山大輔。整った顔立ちに明るい性格、正義感の強い彼は性別問わず人気がある。
「ううん、私今日実際遅れたんだ。ごめんね?」
「……そんなことわざわざ謝らなくてもいいのに。そういうところが岬さんの良いところだよね」
そんなことを挨拶するような感じのトーンで言う青山君だからこそ人気なのかもしれない、と思った。
どうでもいいことを考えていると、青山君の顔が近づいてくる。私は、目を閉じて応じるままになる。
たった2秒間程のキスの時間。その時間だけ、私は気を張らずに安心できる。少しの間、ぬくもりを感じることができる。
唇が離れると、青山君は何も言わずに立ち上がり、一度微笑みを見せてから屋上を後にした。
私はまだ微かに残る熱い想いを感じながら、ぬくもりを逃さないように目を瞑り、時間を巻き戻す。
この関係が始まったのは、1ヶ月前のことだった。
私は両親が共に半年前、事故で死亡していて、現在は両親が残した家で一人暮らしをしている。生活はかなり厳しく、アルバイトで稼いだお金だけではまかなえず、母の弟から援助をしてもらっている。叔父にも家族があるため、一緒に住むことは申し出てくれたが、遠慮した。
最低かもしれないけれど、あの頃は友達が本当に邪魔だった。無駄な同情をかけられることも、心配という名のお節介も必要なかった。
だから、昼休みは逃げるように屋上へと向かった。いつも人がいなくて、学校で唯一くつろぐことができる私の居場所だった。
なのに、あの日は彼がいたのだ。一人でサンドイッチを頬張る彼が。
引き返そうかと思ったけれど、目が合ってしまい、戻るに戻れなくなってしまった。
「岬詩織さん、だっけ? 別に俺の存在は気にしなくていいよ」
「……そんなこと言われても」
気にしないわけがない、という言葉を発する前に私から目を離し、また食事を始めている。
何だか、イメージを違っていた。
いつもニコニコ笑っているのに、今は一つも笑顔を見せていない。ずっと無表情で、まるで私に興味もないような、そんな感じだった。
「……何、俺の顔に何かついてる?」
「いや、いつもとイメージが違うなって思って」
「まあ、教室じゃないから」
つまり、教室では偽っているということだろうか。つい人気者の裏の顔を知ってしまった。
「岬さんだってそうじゃん。教室だといつも笑ってるけど、今日は無機質で疲れた顔してるよ」
「……!」
そう、私も面倒くさかったのだ。折角独りになる為に来た屋上で、嘘臭い笑顔を見せることが。
「どうせ両親がいないことに対しての哀れみの言葉に疲れているんだろうけど」
私を見ないまま、そんなことを平然と言う彼の思考回路は大丈夫なのだろうかと心配になってしまった。
思っていなくても、そこは同情しておくのが人間の「普通」なのに。
「……どうして、青山君は私に哀れみの言葉ってやつをかけないの?」
そう問うと、彼は私を見つめて、こう言った。
「だって、俺は関係ないことだもん。自分が悲しくもないのに何で『大変だったね』とか『泣いてもいいんだよ』とか言わないといけないわけ?」
その言葉を聞いた瞬間、私はこの人に勝手に好感を抱いてしまったのだ。恋とか愛とかそんな言葉では表現できない感情を。
それ依頼親しくなり、昼休みはお互い教室で昼食を食べてから屋上で待ち合わせをするようになった。
そして、なぜあんな関係になったのかというと、お互いに共感したからだと思う。
「青山君ってそんなお金持ちなんだ」
「まあ、人並み以上ではあると思うけど」
青山君はそう言ったけど、青山君の家の企業は私でも知っている名前で、稼ぎは人並み以上どころでは済まないと思う。
「だけど、昔から俺の親は俺に関心なんて無かったし、今でも広い家で家政婦と二人暮らしみたいなもん」
そう言う青山君の顔は少し寂しそうな影の差した顔で、私はつい口を滑らしてしまった。
「何か、似てるね私たち」
青山君は私に「意味不明」といった感じの視線を向けて言った。
「どこが」
言わなければ良かったと思いながら、仕方がなく思いを口にする。
「愛に飢えているところとか」
怒られるかと思い、少しだけ覚悟を決めて発言した。隣に座る青山君の方を見ることができず、私は俯いていた。
「そうかもな」
返ってきたのは思ってもいなかった言葉で、私は思わず勢いよく顔を上げて、青山君を見る。
すぐ近くに青山君の顔があった。すぐに目をそらそうと思ったけど、何故か目をそらすことができなかった。
そのまま、軽くキスをした。お互い、何も言わずに。
あれ以来、何も言わなかったけれど、日常になった。
そんな回想を思い出しながら私も教室へと戻った。
教室に戻ると、何故かざわついた声が聞こえた。
「あ、詩織! 青山君と付き合ってるって本当!?」
「は?」
黒板の前には青山君が苛立った様な顔で一番騒いでいる男子たちを見つめていた。
「俺見たからな! 屋上で大輔と岬が隣並んでいるところ!」
そうだった。屋上はほとんど人が来ることがないだけで、誰も来ないわけではないのだ。見られてしまう可能性だって十分にある。
「だから、俺は岬さんと付き合ってねーよ」
青山君の必死の弁解も虚しく、うるさい声にかき消されてしまう。
「岬! 大輔のこと好きなんだろ? 白状しろよー!」
「岬さんに何言わせようとしてるんだよ!」
青山君が私をからかった男子を一瞥する。
そんなの、火に油を注ぐようなものなのに。
私は決心して声を出す。
「付き合ってないよ。ただ……ただ、屋上でキスをするだけの関係」
そう言った瞬間、教室が凍りついたように固まった。そんなに大きな声で言っていない。内容が強烈過ぎただけだろう。
「な、何それ……詩織、あんた何考えてるの!?」
「別に、それだけの関係だから付き合ってなんかないよって伝えただけ」
教室がまたざわめいた時、青山君が今日一番の大声を出した。
「そうだよ。それだけしかないから。俺と岬の間には。だけど……」
「——俺がそんな関係以上にならないかなって思っているだけ」
その瞬間、黄色い悲鳴が上がる。
私は驚いて青山君を見つめる。青山君を私を真っ直ぐに見ていた。
無表情で、そのままの青山君がいた。
私が初めて好感を抱いた時の青山君がいた。
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*岬詩織 Shiori Misaki
*青山大輔 Daisuke Aoyama
何かもう……グダグダですね。
気に入らない、と思う方もいらっしゃると思います。
しかし、思ったより長くなって少し焦りました……
(追記)
もしかしたら、そろそろ新作長編書き始めるかもしれません。
タイトルとか設定は決めているのですが、書き上げる自信がなく……汗
タイミングが来たら書き始めたいと思っていますので、その時はよろしくお願いします。