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- Re: 甘美な果実〜微かな吐息〜【短編集】【9/12更新】 ( No.77 )
- 日時: 2014/09/14 13:34
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
「キスとチョーカー」
「ま、待って。康平君、彼女いるでしょ?」
「彼女なんていないよ。ほら、早く……」
階段の影で隠れるように唇を近づけ合う男女。顔を真っ赤に染めながら抵抗する振りをする少女はついに瞳を閉じる。少年は余裕の笑みを浮かべながら彼女の顎を持った。
「ストップ!」
顔と顔が極限まで近付きあったその時、2人の顔の間に繊細な掌が現れた。
「何だ……邪魔するなよ、美優」
「邪魔するに決まってる。また彼女いないなんて嘘ついて……」
そう言ってから、止めに来た少女は顔を真っ赤に染めた少女を見て、泣きそうになりながらも睨み、渾身の力を振り絞って言う。
「康平の彼女は私だから……康平の嘘はよくあるから、騙されないでね」
「ご、ごめんなさい、本宮さん!」
そう言ってから逃げるように美優から去って行った。彼女を追い払ったのは美優だが、康平の嘘によって遊ばれた被害者だからか、罪悪感が生まれた。
そして、美優は振り返ってどうでもよさそうな顔の康平を見つめて静かに告げた。
「康平の彼女は私じゃないの?」
「美優だよ。でも、それだけじゃつまんねーじゃん」
「……! 最低!」
美優は息を飲んでから今日一番の声で康平に叫んだ。彼氏としての自覚を全く持っていない康平に毎日のようにいらついている。
「最低、最低、さいってい……!」
康平を置いて教室に戻る途中、自然と「最低」が口から紡がれる。
告白したのは美優からだった。どうでもよさそうに「付き合ってもいいよ」と言ってくれた康平。その時は「今は好きじゃなくても今から好きになってもらえばいい」と思っていた。しかし、今は色んな女の子に迫る康平を見て、そんな思いは薄れている。
「私だけが好きなのかな……」
歩きがゆっくりになる中、小さく呟いた。
「あ、あの! 本宮さん!」
「——はい?」
後ろから名前を呼ばれて、振り向く。そこには同じクラスの田中君が立っていた。
田中君と共に裏庭に行く。
裏庭に来て、とは言われたものの康平に言わないで男子と2人きりになるのは少し気が引ける。——いや、康平にとってはそんなことどうでもいいことなのだろうが。
「本宮美優さん。貴方のことが好きです」
「え、え?! あの、私付き合ってる人が……」
「知っています。村山君だよね。でも、あの人いつも他の女の子と一緒にいるじゃないですか。そんな人と付き合っていたって意味ないよ!」
——他の女の子と一緒にいる。
そんなことは昔から知っていた。付き合う前から、そういう人なんだって自分を言い聞かせてた。それも限界に近いけれど。
この人は、自分を好きだと言ってくれている。それなら、それなら……
「お前は俺の彼女なんじゃねーのかよ」
いきなり、身体が後ろに引かれる。勢いで身体が真後ろに倒れそうになったが、誰かの身体で支えられた。
「こ、康平? 何でここに?」
「お前が呼び出されたって聞いたから来たんだよ」
偉そうに話す康平を見て田中君は声を上げた。
「君は本宮さんを放っておいて遊んでばかりだろう! 今更彼氏面だなんて……」
「ひがんでんの? 悪いけど、これは俺のモノだから」
「わ、私はモノじゃない」
「うるせーよ」
宇宙人を見たような目で康平を見て、田中君は叫んだ。
「意味が分からない!」
そうしてイライラが原因か、田中君はさっさと歩いて行ってしまった。美優の引きとめる声も届かなかった。
「ちょっと康平! 折角告白してくれたのにあんなこと言って帰らせるなんて酷過ぎる……!」
「何か問題ある? 自分で言ってたじゃん、俺の彼女なんだろ?」
康平はそう言ってから美優の顔を軽く上げ、唇を近づける。美優は咄嗟にそれを拒否した。
「やだ……キスなんてしないでよ。他の女のこともしてるくせに、そんな唇を近づけないで」
そう言ってるうちに、悲しくなってきて自然と涙が流れる。こんなことを言ったら呆れて捨てられるかもしれない。そんな考えも脳裏によぎるが、それすらもどうでもよかった。
「……バカなのか?」
「な……っ!」
いきなり唇を塞がれる。貪るように、欲にしか従わないように強引に求められる。息が出来なくて苦しい。窒息死でもしてしまいそうになるくらいに。
やっと離れて、康平は半分怒っているように美優に言った。
「そんなこと言ったって、これくらいでクタクタになる美優に簡単に手なんか出せるわけないじゃん」
「……え?」
「でも、俺は基本的に女の子好きだし。触れてはいけない彼女を持つことなんて面倒くさいけど、それでも我慢してるんだ。十分愛してんだろ」
康平が厳しい口調で美優に告げる。美優は戸惑いながら康平に向けて何かを告げようとするが、言葉が出てこない。
「……とりあえず、もう1回」
「え?!」
「次からはもっと先進むから」
「ど、どういう意味……!」
意味を聴く前にまた求められる。こんなに情熱的な口づけをするのは初めてだった。
上手く言いくるめられたするが、それすらも愛しいと思ってしまった自分。
彼になら、窒息死させられてもいいかと思ってしまった自分はどこに向かうのだろうか。
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*本宮美優 Miyuu Motomiya
*村山康平 kohei Murayama
バカだなあと思いながら書いた物語です。
今後も美優は振り回されていくかと……
温かい目で見守ってやって下さい笑
テーマ「ドキドキ」