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- Re: 甘美な果実〜微かな吐息〜【短編集】 ( No.84 )
- 日時: 2014/10/13 21:57
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
その声は私が自分の気持ちに気付いていることに驚いた声か、図星を言い当てられた動揺の声だろうか。
「——東城のことを気持ち悪いなんて思ったことないよ。俺は、東城に愛されてるお父さんのことが羨ましかったんだ」
「……!」
「そんな俺を気持ち悪いと思う?」
「……思わない」
そう言うと屈託のない笑顔を浮かべて、清水君は立ち上がった。
「とりあえず、お父さんに伝えてみたら?」
清水君はそれだけ言って去ってしまった。私に無理難題を残して。
その日の夜、私は決意を固めて、トモ君の部屋に向かった。扉を開けて、勢いよくトモ君が眠るベッドに飛ぶ。
「なっ……理帆ちゃん?!」
「今日は一緒に寝よう!」
「はい?! 全く子供じゃないんだから……」
嫌そうな声を上げながらもトモ君は毛布を上げて、迎えくれてくれた。布団の中にいそいそと入ると、いつもとは違う温かみを感じた。
トモ君のようなぬくもりに包まれながら、私は告げる。
「あのね、トモ君」
「どうしたの?」
「——好き。大好き」
そう言うと、トモ君は優しい笑みを浮かべて言った。
「僕も理帆ちゃんが好きだよ。理香子と同じくらいにね」
私のお母さんの名前を上げて、好きと告げられる。どうしようもないくらい複雑な気持ちだ。
「でも、今一番大切な人は理帆ちゃんだよ」
「……え? ほんと?」
「うん。理帆ちゃんがいないと僕は生きられないくらい」
たとえそれが娘に対する父親の言葉だったとしても嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
その時、思った。トモ君は私のことをずっと“理帆ちゃん”と呼んでいた。一度たりとも理帆、とは呼ばなかったのだ。それが唯一私とトモ君の親子じゃない証のようで嬉しかった。
だが、トモ君の言葉を聞いて覚悟は決まった。
卒業、しよう。
いつまでも甘えてはいけない。このぬくもりは今日で最後にしよう。ずっと包まれながら生きていくことは絶対に出来ないのだから。
「トモ君、そろそろ“理帆”って呼ばない?」
「え? どうして?」
「だって親子なのにちゃん付けなんておかしいでしょ」
「いいけど……慣れないなあ」
「すぐに慣れるよ」
トモ君が理帆、と練習する様に小声で二回呼んだ。
私も明日の朝からは“お父さん”と呼んでみようか。まだ無理かな。いきなり呼んだらトモ君、驚きで失神しちゃうかもなあ。それよりも、明日学校で清水君に下された難題の結果の報告を本人にしなければ。
「理帆ちゃん? どうして泣いてるの?」
どうして涙が止まらないのかな。
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*東城理帆 Riho Tojyo
*東城智和 Tomokazu Tojyo
*清水唯 Yui Shimizu
ロリポップな時間はいつかは終わりを告げます。
その終わりは理帆に成長を与えてくれるのだと思います。
最後に流した涙は嬉しさか、悲しさか。どのような解釈でも成り立つように書きました。