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コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 甘美な果実〜微かな吐息〜【短編集】 ( No.93 )
- 日時: 2014/11/29 14:45
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
「aitai……」
会いたくて、愛されたくて。
遊びじゃ嫌なの。本当に愛してほしいの。
「剛? ……私。会いたい」
『急にどうした?』
「急じゃない。最近電話かメールばかりで全然会ってくれないじゃない」
電話越しにそう問い詰めると、剛は言葉を詰まらせてから溜息と言葉が混じったような曖昧な声で返事をした。
『ごめん、沙頼。ちょっと忙しくてさ……』
「忙しい」というのはどういう意味なのか、剛は絶対に教えてくれない。他の女の子と会っているから忙しくて私とは会えないの? そう聞きたくて仕方がない。でも、聞いてしまったら私は剛に捨てられてしまうかもしれない。そんな不安が襲う。全身に鳥肌を立たせるくらいに凶器めいた不安だ。
「次に会えるのはいつ?」
『この週末には帰れると思うから、待ってて』
この電話はどこでしているの? と聞きたい。私の知らない女の部屋で? 聞いてしまいたい。そうしたら、剛は何て答えるのだろうか。
『沙頼。君に早く会いたい』
「……私も、剛に会いたい」
私の「会いたい」と剛の「会いたい」の重みはきっと違うだろう。私の方が、ずっとずっと重い。
きっと私は待ち続ける。剛が他の女の部屋で何をしようと、剛の部屋に私以外の女が入ろうとも。
だから、早く会いに来て。そして、私に触れて。
それがあれば私は報われた気がするから。
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*朽月沙頼 Sayori Kutizuki
*小泉剛 Tuyoshi Koizumi
待ち続ける女、沙頼。それを知りながら待たせる剛。
「aitai」という気持ちの違いにお互い気がつかないでいれば、苦しむことなく無邪気に愛し合うことが出来たのかもしれないのに、というもしもを想像しながら書いた話です。
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