コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- ( 1 ) ( No.1 )
- 日時: 2014/02/22 16:59
- 名前: ( ノール ) ◆elRWqcFdQI (ID: qNIh9ax1)
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「ちょっと聞いてぇー。朝ねぇ、ルノ電車で痴漢に遭ってぇ」
3限目が終わり、休み時間。友達と駄弁っていると、ガラッと教室のドアが開き、茶髪の盛り盛りでバッチリメイクの女子生徒、安達 流乃(あだち るの)が入って来るなり大声で叫び、友達に駆け寄った。
ルノの話によると、今朝いつもの様に遅刻して学校へ向かう途中、電車内で知らないおじさんにお尻を触られたという。上手く逃げられてしまった様で、まだ犯人は捕まっていないらしい。
「マジでー!?」「チョーコワイんですけどぉー」と盛り上がっている。
「安達さん痴漢に遭ったんだね。コワ」
「ね、恐いね」
「けーちゃんも気を付けてよ?」
『だって、けーちゃんか弱い女の子だから——』
授業後、友達と別れ駅へと向かう。
友達の福山 美沙都(ふくやま みさと)、通称ふくちゃんがルノの話を聞いて私を心配していたが、私……空手黒帯なんです。
幼い頃から八柳組の一人娘として何かと狙われていて、護身用として空手を習っていた。そこいらの成人男性よりは強いんです、私。
けど私が任侠一家の娘とは知らないふくちゃんは私を心配してくれた。『か弱い女の子』って言われたの初めてなんですけど。有難うふくちゃん。私からすればふくちゃんの方がか弱い女の子だよ。
ホームで電車を数分待ち、乗る。帰宅ラッシュと重なっているのか、人が多くて座れない。私はドア付近で立つことにした。
2,3駅を過ぎた頃、ふと、太腿に違和感が。————痴漢だ。
さっき話を聞いたばかりなのにもう遭うって……。どんだけ運無いの私。いや寧ろあるのか?
そんな事を呑気に考えていたら、太腿を撫でていた手がだんだん上の方へ……。
不味い。私はハッとしてその手を掴もうとすると、後ろから「イテテテッ!」と声がした。
「オイ、テメェ何しやがってんだ、あ゛ぁ?」
「ヒッヒィイ!!」
後ろを振り向くと見慣れた赤髪の30代後半の男性。八柳組の幹部、乾 義孝(いぬい よしたか)だ。乾は禿げ頭のおじさんの右手を今にも折り砕きそうな勢いで掴んでいる。掴まれているおじさんは痛みと乾の迫力に顔を歪め怯えている様子。
「乾さん!」
「お嬢に触るたぁいい度胸じゃねえか。“落とし前”付ける覚悟はあんだろうなぁ?」
「いや、そこまでしなくて良いから」
おじさんに詰め寄る乾を私は制する。“落とし前”って、絶対腕折る気だったよこの人。ほらおじさん怯えMAXだよ。周りの視線が痛い。
乾は「お嬢が言うなら……」と掴んでいる手の力を緩める。と言ってもまだかなりの力だ。
私に痴漢してきたおじさんは、今朝ルノに痴漢をした犯人と同一人物だった。……何で同じ日に2回もするのか。
駅員さんに引き渡し、私は乾と一緒に帰宅した。
+ +
「お嬢大丈夫でしたか? ……んの糞野郎」
「大丈夫、何も無いよ。てか何で乾さんが居たの?」
偶然、とは思えないし。
「何故って、そりゃぁお嬢、私らお嬢の護衛っすよ」
「え、護衛? いつから? 私らって?」
「お嬢が幼稚園に入園してからずっとでさぁ。私の他にも日替わりでやってますぜ」
「ええええ!? 何それ私聞いてないんだけど!」
護衛が付いていただなんて、しかもそんな昔から。そんな事一切聞かされていない。
乾は笑って「そりゃ極秘命令っすからねぇ」と言う。極秘って何だよ。しかももうバレちゃってるし。
「それって、お父さんからの?」
「そうっすよ。3代目がお嬢の事心配なさって」
「……私もう高校生なんですけど」
「高校生とか関係無ぇでさぁ。現にお嬢、痴漢に遭ったじゃないですかい」
うっ……。痛い所を。なのでこれからも護衛を続けるとの事だそうだ。
「今日の事はちゃんと3代目に話しますぜ」
いやいやいや、それは駄目だそれは。言ってしまったら多分、さっきの犯人のおじさん抹殺されかねないよ!? やる時はやっちゃう人だからね、あの人。
「それは駄目! 乾さん、お願い! 今日の事お父さんには黙ってて!」
「お嬢それは流石に……」
最初は渋っていた乾だが、私の熱烈な頼みに折れ、「……今回だけっすよ?」と渋々承諾してくれた。何だかんだで優しい人だ。怖いけど。
「さぁて、いつもより遅くなっちゃったし、帰ったら何て口実言おっかなー。偶然乾さんと会って話混んじゃった、とか?」
「お嬢……」
さっきまで痴漢に遭っていたというのに、ケロっと何事も無かった様にしている私を見て、乾は感心と言うか、流石と言うか、はたまた心配と言うか。そんな事を思いながら、これからも護衛に努めようと決心したという。
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