コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

( 3 ) ( No.3 )
日時: 2014/02/28 19:30
名前: ( ノール ) ◆elRWqcFdQI (ID: qNIh9ax1)



( 3 )




 あの事件からというもの、あの3人の私への態度が変わった気がする。それはもう明らかに。そんな怯えたような顔しなくても良いのに。取って喰ったりしないよ……。


+ +


「ねぇ知ってる? あだっちーに痴漢した犯人捕まったらしいよー」

 お昼時、皆が自分のクラスや他クラスで昼食を食べている。私はふくちゃんと、違うクラスの子、早川 汀(はやかわ なぎさ)。通称なぎちゃんと3人で食べている。なぎちゃんはあだっちーこと、ルノと同じ中学だったらしい。
 食べているとなぎちゃんがふいに話題を振ってきた。ふくちゃんが「そうなの?」と返す。

「そう。何かね、その犯人また女子高生に痴漢してて、で、ヤクザっぽい人? に捕まって逮捕されたらしいよ」
「えぇー。その女子高生、ヤクザの“お嬢”? とかなんじゃないの?」
「かもね。コワー」

 「ねー」とふくちゃんとなぎちゃんが話してるけど、……それ、私です……。そういえばあの時、同じ高校の人乗っていたけど、髪解いていて伊達眼鏡も外していたし、スカートも刺青が微妙に見えない位置まで上げていたから私だって気付かなかったのか。
 あぁあぁああ、と食べていた手を止め黙っていると、ふくちゃんに「怖いよね、けーちゃん」と言われたので、顔を上げ吃(ども)りながら「う、うん」と答えた。それ自分……。
 なぎちゃんが「この辺ヤクザとかいるのかな?」と話し始めたので、私は最近学校の近所にOPENしたパンケーキ屋の話題にすり替えた。


+ +


 お昼に私が苦し紛れに言ったパンケーキ屋に、放課後ふくちゃんとけーちゃんと私の3人で行く事になった。
 パンケーキ屋“ハニーメイト”は、学校から自転車で約10分の所にある。なぎちゃんは自転車で、ふくちゃんと私は徒歩で行った。
 ハニーメイトに着くと、そこは女子高生や女性達の人だかり。なんと30分待ちの事。まぁ、折角来たんだからと3人で待つ事にした。

「ねぇ、あのスーツの人カッコ良くない?」

 前に並んでいる見た感じ女子大生っぽい2人組が、左の木々が生えている方を見ながら言った。キャッキャと楽しそうにしている。こんなとこにスーツってあんま似合わない気が、と思いながら私もその方を見ると…………。

 あああ青林(あおばやし)さん……!

「あの人渋いねー」
「人待ってんのかな?」

 同じ様にふくちゃんとなぎちゃんがそっちの方を向いて話し合っている。
 4人が注目している男性、それは八柳組の幹部、青林 貴一(きいち)だ。40代で、スーツをピシッと着ていて見た目静かな男性。八柳組には珍しい穏やかな人。……見た目は、だ。実際は頭の切れる凄い人。聞くところによると、八柳組でも超偉い人、大幹部なんだと。因みに乾の直々の上司らしい。
 青林は女性達が沢山いるこのパンケーキ屋の木々が生えている駐車場に一人でいた。似合わないったらありゃしない。……はっ、もしかして私の護衛……? もう極秘でも何でも無くなってるじゃないの。
 私は気付かない振り、他人の振りをする事にした。


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 ハニーメイトのパンケーキは美味しかった。甘ったるくも無く、丁度良い甘さとフルーツの甘酸っぱさがマッチしていて、何枚でもいける美味しさだった。
 組の人にもお土産に買ってあげようと思い、お持ち帰りセットを買った。なぎちゃんに「めっちゃ買うね!」と言われ、ハハハと空笑いで誤魔化した。危ない危ない。前にも他の場所で皆に買って行った事があるので、多分私は大家族だと思われているに違いない。

 ふくちゃんなぎちゃんと別れ、家へ帰る。お土産のパンケーキが多くて重い……。フラフラと歩いていると、急に左手が軽くなった。

「お嬢、そんな大荷物だと転びますよ?」
「青林さん!」

 左を向くと青林がパンケーキが入っている袋を持ってくれていた。気配も感じさせず忍び寄ってくるところは流石だね。全く気付かなかったよ。
 青林は「ほら、持ちますよ」と右手にも持っていた袋も持ってくれた。……紳士だ。大荷物を持っているというのに、重さをも感じさせず軽々持っている。「有難うございます」と言うと、「いえ」と柔らかな笑み。紳士だ。

「青林さんも私の護衛ですか?」
「そうですよ。乾からお嬢が痴漢に遭ったと聞かされましたから」

 乾さん言っちゃってるじゃん……! いや、まぁ、上司だから報告しなくちゃいけないんだろうけど。これじゃあお父さんにもバレてるんじゃ、と思っていたら、そう思っているのに勘付いたのか、青林が「3代目は知りませんよ」と言ってくれた。良かった……。

「さて、早いとこ帰りましょうか」

 「3代目が心配しますし」と大荷物を持ってくれたまま、私達は家へと帰宅した。




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