コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- ( 5 ) ( No.10 )
- 日時: 2014/03/01 16:06
- 名前: ( ノール ) ◆elRWqcFdQI (ID: qNIh9ax1)
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「いっけねぇ、酒足んねえや」
台所の前を通り過ぎようとすると、中から声がした。組の皆の胃袋を癒してくれる仲原(なかはら)だ。夕飯の支度をしようと食材を確認したところ、お酒が残り僅かで足らないとの事。
「私買ってきましょうか?」
丁度コンビニへ行こうとしていたし、贔屓にしている酒屋はそのコンビニをちょっと過ぎた所にある。「ついでだし」と言うと仲原は「お嬢に行かせる訳には行きませんよ!」と食い気味に却下したが、何とか説得して渋々承諾した。
仲原からメモ用紙とお金を貰い、外に出た。
+ +
コンビニに寄り、授業で使うノート2冊とアイスを買った。アイスを食べながら酒屋“エノモト”へと向かう。
「嬢ちゃん、こんなとこに一人でいちゃあ危ないよ。……俺みたいのがいるからねえ!」
「……!」
向かっている最中に突然後ろから何とも物騒な声を掛けられた。私は反射的に回し蹴りをする。するとヒョイっと避けられた。声を掛けた人物を見ると…………ハァ……。
「……何やってんですか島崎(しまざき)さん」
「いやぁ良い蹴りだったねぇ。おいちゃん危うく食らっちゃうとこだったよ」
……全然余裕のよっちゃんだったくせに。
その人物は八柳組の幹部、島崎 竜平(りゅうへい)。焦げ茶色の髪のオールバックで後ろで1つに結んでいる。黒いサングラスに銜(くわ)え煙草が特徴の40代の男性。一人称が『おいちゃん』と飄々としていて頼りなさそうだが、これでも3代目の左腕。右腕の青林と並んでやり手の大幹部だ。よく青林と一緒に『青島コンビ』と言われている。
「てか何でいるんですか?」
「ん〜? そりゃあ螢お嬢をお守りするナイトよ〜」
「はいはい」
軽くあしらう様に相槌を打つと、島崎は「酷いねぇ〜」と笑いながら言う。絶対思ってないでしょうに。
「ほら、螢お嬢痴漢に遭ったでしょ? だから更に護衛を強化してんのさ」
「えっ島崎さんまで知ってんの!?」
どんだけバレてんの……。すると島崎が「まぁ、3代目以外は皆知ってんじゃな〜い?」と適当に言う。だから仲原さんあんなに行かせたくなかったのか。お気遣い有難うございます。
「で、おいちゃんが来たって訳よ」
そうなんだ。けどあの会い方は無いよ……。
+ +
そんなこんなで酒屋“エノモト”に着いた。
「こんにちはー。シゲさん居ますかー?」
すると商品の棚の奥からヒョコッと顔が出た。この酒屋の店主、榎本 茂(えのもと しげり)だ。黄土色(おうどいろ)の髪に赤いバンダナ、白いTシャツに黒の作業用ズボン、紺色のエプロンを掛けている30代前半の男性。
榎本は作業をしていたのか、手に持っていたビンを床に置いてこちらにやって来た。
「シゲさん、これ欲しいんですけど」
仲原からのメモ用紙を榎本に見せる。榎本はそれを受け取ると、一言「ん」とだけ言って奥の方へ酒を取りに行った。相変わらず無口な人だなぁ。
数分後、榎本が奥から酒のビンを両手に持ちやって来た。「7,520円」と短めに言う。私は預かった1万円札を出し、お釣りを受け取った。
島崎の姿が見当たらないので店内を見渡すと、洋酒コーナーの所に居た。「行きますよ」と声を掛けると私に気付き、「ん〜はいよ」と私の方へ歩き出す。
レジで書類に何かを記入している榎本に、島崎は笑いながら言った。
「シゲリンは真面目だねぇ〜」
グサッ
一瞬、時が止まった。私と島崎は動けず固まっている。青ざめている島崎の顔スレスレを掠めたモノ、それは先程まで榎本が使っていたシャープペン。それが壁にグサリと刺さっている。
榎本は女性の様な名前が嫌いらしく、皆には『シゲ』としか紹介していない。けれど極僅かにフルネームを知っている人がいる。その一人が島崎だ。あんな性格の島崎なので、おちょくる様に勝手にあだ名を付けて呼んだらこんな事になった。自業自得という訳だ。
さ、流石八柳組御用達(ごようたし)の酒屋だけあるね。普通ならシャーペン壁に刺さんないよ……。
榎本は引き出しからシャープペンを取り出し、何事も無かったかの様にまた書類に記入し始める。
私達二人はもう絶対『シゲリン』と言わないと心に決めた。
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