コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 飛鳥予知夢 ( No.1 )
日時: 2014/02/26 06:10
名前: memory (ID: BT8pEM9W)


2、 雷の神


ここは、伊豆。雲ひとつない青空に、気持ちのいい風が吹く。
その風で、あたりの草が、わさわさと揺れる。
キラリと輝く太陽は、ひとりの若い男を照りつける。

少年、と言った方がいい。
武士の子だろうか。長短の刀を2本、腰につけている。だが、着ているものは粗末で、周りで働く農民たちと、ほとんど変わらない。
ただ、髪はきっちりと手入れされている。それに、髪を結んだ紐には、つやつやと黄色に光る勾玉が通してある。
その少年は、近くの木の下にあった大石に、腰かけた。どこか、退屈そうだ。

そこに、ひとりの少年がかけてくる。
「おぉーい。あーすーかーぁ。」
迫力のある声と、広い肩幅。
大石に座っていた少年が、立ち上がる。
どうやらこの少年、飛鳥という名前らしい。
「なんで、遅れた?一緒に家からでたじゃないか。」
飛鳥は、背の高い少年を見上げる。

すると少年は、ふてくされたように、そっぽを向く。
「だってよぉ。あのばあさん、おれに家事、やらせるんだぜ?家から出る瞬間に呼び止めるし。でも、遅れたのはおれが悪い。飛鳥、悪かったよ。」
少年に頭を下げられて、飛鳥は戸惑う。
「がく。頭をあげてよ……。理由があったんだろ?なら、いいじゃないか。」
背の高い少年、がくと、背の低い飛鳥。外見だけは正反対だが、同じ屋根の下にすむ、仲の良い養子同士なのだ。

だが飛鳥が戸惑ったのはほんの一時。
がくを睨み付けると、言った。
「おば上に対して、そんな呼び方があるか。」
飛鳥は、小さくため息をついた。

そして、おや、と思う。
ー……この話……、どこかでしたような。それに、がくの言い訳もそっくりそのまま、きいたことある……。夢で……、みた?じゃあ、それは、予知夢……?
「どうした、飛鳥。固まってるぞ。」
がくが飛鳥の肩を揺する。
「い、いや……。なんでも、ない……よ……?」
ーぼくが予知夢をみただなんて言ったら、がくはきっとぼくを変な目でみるようになる……。
飛鳥は必死の言い訳をするが、がくは鋭い。
「いや、なーにかあるぞ?白状しろ。言え。」
しばらくねばったが、とうとう飛鳥が折れた。
「言う、言うって。変なことだからな。何も、言うなよ?」
「わかった。」
飛鳥は、落ち着くために、深呼吸する。

「まず、簡単に言えば、ぼくはこの先の出来事を予知した。夢で。」
「はぁぁあ!?夢で、予知したってぇ!?」
「そう。予知夢を、みたんだ。」
がくの目が、点から怒りに変わる。
「飛鳥ぁっ。おめぇなぁ。人がどんだけ心配したか分かってんのかよ!?」
がくは飛鳥に怒り続ける。
しばらく黙っていた飛鳥は、怒りをおさえきれず、がくに向かって怒鳴る。
「ぼくを信じないのか!?なら、この先起こる出来事を教えてやろうか!?」
飛鳥は自分の見た夢を覚えている。この先のことも。
「言えるもんなら、言ってみろっ。当たるものか。」
がくも、負けじと飛鳥に言い返す。
「いいよ。言ってやる。ここに少女が来る。知らない子だ。」
自信満々に、飛鳥が言う。

「それだけか。……まぁ、いい。知らねぇ女が来るんだな?」
「違う。少女だ。女っていうほど、年じゃない。」
「ほう。ここに、少女が来ると。わかった。待つか」
がくの鋭い目が、前を向く。そして、その目が大きく見開かれた。

そこには……、少女がいた。
今まで見たことのないような、可愛らしい少女だ。
目はぱっちりとして、髪は後ろで束ねている。着物も少女に似あう。
「なにを……、してるの……?」
声も凛としていて、まるで女神のよう。
飛鳥は、がくににこっと笑いかけてから、少女に話しかける。
「あなたは、この村の住人じゃないですね?ぼくらは今、話をしていました。」
少女は、小さく微笑む。
「そうですか……。わたし、相花月衣織といいます。人を探すために、旅をしているのです。あなたたちにも聞きたいんだけど……。」
相変わらず、少女……、いや、衣織は、凛とした、静かな声で話す。

「勾玉を持つ人を探してるんです。とてもきれいで、色のついた勾玉を持っている人なの……。」
衣織は、諦めたように2人を交互にみる。
その目が、途中で止まる。
ちょうど、飛鳥の頭……、髪を結んであるところだ。
確かに、飛鳥の髪を結んだ紐には、勾玉が通してある。

「このことですか……?」
飛鳥が、自分の勾玉を指差す。
「そう……!!わたし、その勾玉を持つ人を探してたんです!!」
衣織の喜びようといったら、すごいものだ。
きっと、長い間旅をしてきたに違いない。
「あなた、わたしと一緒に旅をしてくれますか?」
「はぁぁあ!?え、いぃい!?」
飛鳥は、いきなりの展開に、驚きを隠せない。
変な声をあげたあと、今度は慌てる。
「ど、どういうこと!?なんで、ぼく!?」
混乱状態の飛鳥を落ち着かせるため、衣織は話す。

…… が、それが飛鳥をもっと混乱させる元なのだった。
「順番に話してくね。まず、あなたは、わたしと旅する運命なの。わかる?」
「わかるも何も。あなたとぼくって、なんの関係があるんですか!?」
「これを見て。」
衣織は、小さな巻物を出すと、飛鳥に渡す。
自分は関係ないと思っていたがくも一緒に巻物をのぞく。
「嘘じゃないからね?わたしの父が残したものなんだから。信じないだなんて、言わせない。」
衣織の堂々とした姿に、思わず2人はうなずく。

飛鳥は、巻物の文字を目で追う。
途中で、止まる。
ある1文を見つめている。
飛鳥も、がくも、ただ呆然とその文をみるばかりだ。
そこには、こう、書いてある。

ー 雷の神は黄の勾玉を持つ。 と。
「これは……、これは、ぼくが雷の神、ということなのか……?」
飛鳥は、衣織をじっと見つめる。
衣織は、にやっと笑う。
「そう。あなたは、雷の神の子。続きは読んだ?」
飛鳥は首を振ると巻物の続きを読む。
読み終えると、飛鳥は衣織を見る。
「信じてくれるよね?」
衣織のまなざしは、真剣で、とても嘘とは思えない。
「君を、信じよう。ただし、旅に出るのは、おじ上の許可が出てからだ。」

衣織を連れて家に帰ると、おじの兵平とおばのゆす咲が夕飯の席についていた。
「おや。その娘さんはどうしたものだ。」
兵平が穏やかに微笑む。
すると飛鳥が、とうとう口を開いた。
「ぼく、この少女と旅に出てもよろしいでしょうか?」
飛鳥のいきなりの発言に、2人は驚いたものの、すぐに旅の許可を出した。
「飛鳥がやりたいことですもの。いってらっしゃいな。」
「……そうか。寂しいが、飛鳥がいいのなら、いいさ。」
というように。

朝になると、飛鳥と衣織は兵平とゆす咲、がくに別れとお礼を告げ、旅立った。
この後近い日に、2人目の神に出会うことになるとは、予知夢の能力を持つ飛鳥でさえも、まだ知らないことだ。