コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 魔法使いの青春理論 ( No.7 )
- 日時: 2014/02/27 20:04
- 名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: oq1piOCI)
02.
探し物はあっさり見つかった。
高い木の下に置いてあった書物を抱え、私とユリは再び空を飛んでいた。
「やっぱり既にギルドに入っている人が狩りに来てるだけだねー。
ここで勧誘しても仕方ないし、今日はこれを届けて帰ろうか」
「そうですね。また明日出直しましょう」
この世界にはいたるところに森、林、洞窟、荒野などの、モンスターのテリトリーが存在する。
テリトリーは身近なところにあるが、モンスターはテリトリーの外には
出ることができないため、町にいれば襲われるなんてことはない。
逆に、テリトリー内での安全は保障されない。気がついたら背後にモンスターが…ということだってある。
だから多くの人間は町に住むことを望む。
しかし、やはり例外者はいるもので、僅かながらもテリトリー内に住んでいる人間もいる。
そのような人間は群れることを望まないため、ギルドに入ることはないのだ。
上空二十メートルほどから森を見下ろしながら飛んでいた、その時だった。
「オオオン——」
そう遠くないところから、咆哮が聞こえた。
思わず上空で止まる。
「おっ、近くでバトルでもやってるのかな?」
「鳴き声からしてオオカミあたりでしょうか」
バトル、という単語を聞くとどうしてもうずうずしてしまうのが私の体質だ。
「オオカミかぁ…。ねぇねぇ、ちょっと観戦してもいい?」
「はい、ご主人様の仰せのままに」
ということで、私とユリは早速向かった。
しかし数分後に私たちが見たのは、凄まじい光景だった。
そこにいたモンスターは、中級生物の巨大な狼、グランドウルフだった。
そして、ウルフの眼前には、三人の青年がいた。
しかし三人とも服がところどころ破けていて、遠目でも疲労困憊だと分かる。
あの様子で中級生物とバトルなんかできっこない。
一方的にやられるに決まってる。
私とユリは上空から唖然としてそれを見ていたが、
「ご主人様」
ユリの呼びかけで我に返る。
私は彼女に目配せした。
ユリはそれだけで私の意図をくみ取ったようだ。
そう、彼らを助けるということを。
困っている人はどうしても放っておけない。
それも私の体質なのだ。
「私は彼らを守る。ユリは背後に回って」
「かしこまりました」
ユリが頷くのを見届けて、私は杖から降りた。
地上へと落下し始める。
——とその時、ウルフが脚を折り曲げ、体勢を低くした。
マズい、飛び掛かる気だ!
私は杖をしっかりと握り、気を集中させる。
そして——落下しながら魔力を解き放った。
「はっ!」
青年たちの前に見えない壁が現れ、恐るべきスピードで
飛び掛かってきたウルフを弾き飛ばした。
そう、これは初歩中の初歩、結界魔法だ。
すたっ、と地面に着地すると、
「えっ——!?」
背後から、驚いたような声が上がった。
とりあえずそれは置いといて、私は叫んだ。
「ユリ!」
ウルフの背後にそびえ立つ木から、ユリが飛び降りてきた。
そのまま、白と黒のしましま模様のタイツに包まれた細い脚を突き出し、
ウルフの背中に突っ込む。
少女の、たったそれだけの攻撃で、
「グルアァッ!!」
ドガッ、という音と共に、ウルフの身体がくの字にしなり、地面にめり込んだ。
ユリは「武力」の魔法使いだ。
これは、身体能力を何十倍、いや何百倍も上げる魔法なのだ。
その威力は、下級モンスターを数発の攻撃で倒してしまうほど。
かなりのダメージを受けたウルフに、ユリはすかさず拳を打ち付ける。
しかし、ウルフも負けていない。
「グルアアア!」
鋭い爪を持つ前脚を、ユリに振り下ろした。
しかしユリは、それを片手で受け止めてしまった。
「ご主人様、今です!」
ユリの合図を聞き、私は背後の青年たちに向かって叫んだ。
「目を伏せて!早く!!」
私の気迫に押されてか、青年たちはすぐに目を腕で覆った。
ユリもそうしているのを確認し、私は魔力を発動させた。
次の魔法は強めの技なので、呪文を唱える。
「閃光よ、その身を散らせ!」
次の瞬間、強烈な光が炸裂した。
そう、閃光魔法だ。
「グオアアアッ!?」
それを直接見たウルフは目を眩ませ、じたばたともがいている。
ユリが私のもとへ駆けてきてから、もう一度唱えた。
今度はさっきよりも魔力を浪費する魔法——移動魔法だ。
「ライトニング・ムーヴ!」
まばゆい光が、私たちを包んだ。