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- Re: 魔法使いの青春理論 ( No.10 )
- 日時: 2014/03/01 14:25
- 名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: cSy8Cn7x)
03.
一瞬の浮遊感のあと、光が晴れる。
そこはさっきまでいた西の森ではなく、私の屋敷の玄関だった。
もちろんグランドウルフもいない。
「移動魔法、成功ぉ…」
「御苦労様です、ご主人様」
ぺこり、と頭を下げてから、ユリは私の後ろに目をやった。
私も振り返る。
そこに立っている青年たちは、唖然とした顔でこちらを見ていた。
一人は茶髪を僅かに束ねていて、他の一人はふわふわとした淡い黄色の髪に
低めの身長。それと残りの一人は艶のある黒髪が印象的だ。
三人とも私たちと年齢はさほど変わらなそうだ。
私は警戒心を抱かせないように、笑顔を見せて声をかけた。
「ここは私の家だから安心して。それより、早く休まないと。
体力も魔力も尽きかけているもの」
すると、茶髪の青年が驚いたように言った。
「や、休ませてくれるのか?三人も?」
「当然よ。困っている人は迷わず助ける、これ常識でしょ」
目を見開く三人に、今度はユリが言った。
「お部屋までご案内します。階段は上れますか?」
「え?あ、うん…」
「かしこまりました」
すたすたと階段へと向かうユリ。
戸惑っているのか動き出さない三人の背中を、私は軽く押した。
「ほら、進んで。詳しい話は後で聞くからね」
「あ、ああ…」
ユリを先頭に、私を後尾に、階段を上り二階へ。
二階建てのこの屋敷は、一階にはリビング、食堂、大広間、風呂などがあり、
二階には個人の部屋が並んである。
私の部屋に、使用人の個室が二十室——その内の一つはユリの部屋——、
そして…今はもう使う者はいない、両親の部屋も。
彼らには別々の使用人室で休んでもらおう。
使用人室が使われるなんて何年ぶりだろうか。
彼らをベッドに寝かせ、私とユリはしばらく看病にあたった。
まず着替えを、続いてすりおろした果物と水を与え、熱がないか確認し、
身体を拭くためのタオルを渡して、ようやく落ち着けた。
ユリと一緒に彼らの服を洗濯機に入れ、稼働させた。これで少し休める。
「あとは干すだけ…」
と、言いかけたところで、私は急に身体のだるさを感じた。
「あれ…身体が…」
「ご主人様!」
不意に立ち眩みがしてふらついた身体を、ユリが素早く支えた。
「おそらく久しぶりに移動魔法を使った為、気分がよろしくないのでしょう。
どうかお休みなさってください」
「うん…そうするよ」
ユリに支えられながら、私は自室に入った。
「彼らのことはお任せください。お食事は五人分作っておきますからね」
「うん、ありがとう、ユリ」
ユリは笑顔の中に心配そうな表情を含ませ、「ではごゆっくり」と部屋を後にした。
ユリはいい子だなぁ…。
あの時、偶然でも彼女に出会えてよかった。
そんなことを思いながら、私は大きすぎるベッドに寝転がった。
そのまま白い天井を見ていると、だんだんと意識が薄くなっていった。