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- Re: 魔法使いの青春理論【ひたすらバトル】 ( No.102 )
- 日時: 2014/07/04 16:56
- 名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: 5PvEL/lW)
35.
「カシワギ!」
振り向くと、そこにはこの屋敷の主がいた。
「勝手に手を出しては困るなぁ。彼…ヒイラギは私のペットなのだが」
軽々しく吐かれたその言葉に怒りが沸き上がる。
「獣人をペットにするなんて最低よ!この悪漢!」
カシワギは苦笑しながら呟く。
「やれやれ、五月蝿いお嬢さんだ。——ヒイラギ」
そして、少し低い声で命令した。
「彼女に仕置きを」
直後、獣人の青年——ヒイラギは息を呑んだ。
私を襲わず、ただ狼狽えているのがわかる。
それを見計らってか、カシワギが言った。
「なんだ?この子の仲間になりたくて躊躇っているのか?
…そんなの、お前には無理だろう?」
ヒイラギが目を見開く。
次の瞬間、彼の緑色の目が光ったかと思うと、鋭い爪で私に切りかかってきた。
突然のことに慌てて杖で対処しながら、私はカシワギに問いかけた。
「無理ってどういうこと!?」
するとカシワギは楽しそうに微笑んだ。
「知りたいかい?では話してあげよう…ヒイラギ自身から聞いた、彼の過去をね」
その言葉にヒイラギは一瞬だけ動きを止めたが、再び攻撃を始めた。
獣人は基本体術での攻撃だ。
私は近接戦の体勢をとろうとしたが…
なんと、ヒイラギの前に魔法陣が現れ、そこから雪の球が放たれた。
「魔法!?」
瞬時に結界を張り、直撃を避ける。
獣人は人間の何倍も優れた体力を持つ。
だから魔法を使わずとも存分に戦える。
故に、獣人は魔法を使わない生物になっていった。
ああ…でも、例外は存在するって、学校で教わったような気がする…!
驚く私に、カシワギは語り始めた。
「ヒイラギは冬オオカミの獣人だ。
冬オオカミは、言わば冬の使者。
冷気や雪の魔法を使うことができる、例外の獣人なんだ。
その毛並みは、寒々しさを感じさせる灰色。だから頭髪も灰色だ。
しかし…目の色は黒」
「え…?」
結界越しにヒイラギの目を再度見つめる。
獣人姿の今は目映い緑色だし、人間姿でも深緑色だった。
でも冬オオカミは黒目…?
疑問に思っていると、ヒイラギは目を伏せた。
「そう、ヒイラギは突然変異で緑の目を持って生まれたんだ。
両親も他人も…自分以外の者は全員黒目なのにね」
『俺を迎えてくれる人なんて、この世に一人もいねぇんだよ…!』
不意に、ヒイラギの言葉がよみがえった。
「緑目のヒイラギを、村中のオオカミ人間たちは気味悪がった。
他人だけでなく、親戚や家族までも」
「そんな…!」
つまり、ヒイラギは周りの人たちから忌み嫌われて…
ずっと孤独だったってこと…!?
「——っ」
ヒイラギは何かに耐えるように目を逸らす。
「ヒイラギは学校を卒業したのち、冬オオカミ族の村から抜け出した。
それからは都会にて一人で依頼をこなしていた。
数ヶ月前、君たちと同じように、ヒイラギはこの屋敷に侵入してきた。
まぁ、呆気なく捕らえたけどね。
通常だったら私の実験体になるのだが、私は彼の強さに感心してね。
だから、使用人たちでも対処しきれない敵が来た場合の最後の切り札として
ヒイラギを扱うことにしたんだ」
私は衝撃を受け、思わず結界を解いていた。
「そんな…酷いよ…」
その呟きを聞いて、ヒイラギも攻撃をやめる。
それに追い討ちをかけるように、カシワギは歪んだ笑顔をして言った。
「今まで誰とも交わったことのない者が、
他人と共存して生きていけると思うのかい?」
「思うよ!」
ヒイラギが攻撃を再開する前に、私は叫んでいた。
——孤独。
それは、とっても悲しいこと。
家族を失って、ユリと出会うまでの辛い期間を味わった私には、
あなたの気持ちが痛いほどわかる。
だからっ——
「確かに難しいことだけど不可能なんかじゃない!
私がヒイラギを支えるから!!」
「——!!」
緑の目を見開くヒイラギを、私は強く見据えた。
そして。
その目を一瞬強く光らせて、彼はカシワギの方を向き…口を開いた。
「——もうアンタには従わない。俺はアンタのペットじゃない。
こんなところ、出てってやる!」