コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 魔法使いの青春理論 ( No.124 )
- 日時: 2014/07/07 22:51
- 名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: oMcZVhE7)
【第五章 積乱雲—cumulonimbus—】
40.オープニング・サマー
蒸し暑い食堂に全メンバーを集めて、百花繚乱のギルドリーダーである
私——ツバキは、高らかに言った。
「暦の上では今日から夏!てなわけで——」
そこで少し溜める。
「夏休みの計画をたてよう!」
「「「「「夏休み?」」」」」
メンバー五人の口から、同じ言葉が一斉に放たれた。
「そ。夏休み。
普通のギルドにあるのは、一週間ほど活動を休止する"夏季連休"で
学生が送る一ヶ月以上の夏休みじゃない。だがしかし、」
テーブルの脇に置いてあるホワイトボードをバシンと叩く。
それに書いてあるのは、「青春」の二文字。
「夏休みこそ、青春を謳歌できる、絶好の機会じゃあないかー!!」
「おおおおっ!さすがツバキ!考えることがまさに青春だな!」
真っ先にそう反応したのは、他のメンバーより一歳年上のクレハだ。
「つまり、僕たち百花繚乱は、夏季連休じゃなくて
一ヶ月ほどの長期休業になるってこと?」
「…経済的に問題があるんじゃないのか」
クレハの幼馴染みであるナツメとトウが問う。
「よくぞ聞いてくれました!夏休みのポイントはそこなの!」
そう言って、私はホワイトボードの余白に案を書き始めた。
「月曜日と木曜日はいつものように依頼をこなす日…ただし、
夏休み中の依頼は一人でこなしちゃダメってことにする!」
続けて他の曜日の予定も書く。
「火、水、金曜日は、仕事はしないで遊ぶ日!
んで、土日は自分の好きなように過ごしてオッケー!どうよ!」
最後にバンとホワイトボードを叩くと、
「ご主人様らしい素敵なご発想ですね」
可憐に微笑みながら、メイドのユリが言った。
「でしょでしょ!ヒイラギはどう思う?」
私の問いかけに、狼の獣人であるヒイラギが答えた。
「俺もいい発想だと思うぜ。それに——」
ヒイラギは深緑色の目でパチパチとまばたきをしてから、嬉しそうに言った。
「仲間と遊んで過ごす夏休みなんて初めてだから、すっげぇ楽しみだ!」
…そう、まだ獣人の村にいた頃、他人とは違う色の目を持つヒイラギは
それを気味悪がられ、孤独な生活を送っていた。
しかし、二週間前、偶然の出会いを遂げた私たちは、
ヒイラギをギルドの仲間として迎え、生活と仕事を共にし始めた。
最初は不安がってたヒイラギだが、今ではすっかりギルドに馴染んでいた。
特にトウとは何かあるたびに口喧嘩する仲だ。
私が思うに、この二人が一番仲良しコンビだ。
ヒイラギの返事を聞いて、私は高らかに宣言した。
「よーし!じゃあ夏休みはこの日程でいくよー!異議は認めないよー!
じゃ早速何して遊ぶか決め…る前に」
私は額に浮かび上がった汗をぬぐった。
「クーラーつけよっか。暑いよね」
壁に取り付けてあるスイッチを押す。
が、しかし。
「あれ…つかない」
エアコンは何の反応も示さなかった。
「電池切れじゃない?トウ、調べてみてよ」
ナツメに促され、トウがエアコンのリモコンに触れる。
電気の魔法武器使いであるトウは、電化製品に触れるだけで、
ちゃんと電力があるかどうか調べられるという。
トウはすぐに告げた。
「リモコンも本体も完全にぶっ壊れてる」
「へ?」
間抜けな返事をする私の傍らで、ユリが冷静に呟いた。
「そういえば一昨日の夕立のとき、落雷で停電しましたよね?」
「あ…確かに」
…ってちょっと待って。胸騒ぎがするんだけど。
うちの電化製品は、エアコン以外は魔力モーターで稼働しているが、
エアコンだけは特殊でコンセントに繋いで使用している。
そして一昨日、落雷した。
とどのつまり、
「家中のエアコンぶっ壊れたああああああああああ!!!」
「「「ええええええええ!?」」」
床にがっくりと膝をつく。
ただ単に壊れたならまだましだ。だが。
「このお屋敷の全てのエアコン、製造法が特殊で
直すのに時間かかるらしいですよ…?」
家のことを私よりも知っているユリが、困ったような表情で言った。
…なんだこれ。
これがギルド「百花繚乱」の夏休みの幕開けですか。
「暑い夏が…始まるね…」
私がそう呟くと、五人のメンバーはため息混じりに笑った。