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Re: 魔法使いの青春理論 ( No.125 )
日時: 2014/07/11 18:39
名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: 5PvEL/lW)

  41.暑い


 空は快晴。
 カーテンの隙間からもれる朝日が、控えめに部屋を照らす。

「んー…」
 温度調節機能を搭載したエアコンが稼働する部屋で気持ち良く目を覚まし、
 窓を開けて、朝の涼やかな風を浴びる。

 そして、笑顔で言うのだ。
「清々しい朝ね…。さて、今日も一日頑張りましょっ!」



 ……なんてのはただの空想、いや妄想。



 空は超絶快晴。
 全開のカーテンから、既に熱さを増した太陽が容赦なく部屋の温度を上げる。

「うぅぅ…」
 ぶっ壊れたエアコンが取り外された部屋で唸りながら目を覚まし、
 涼を求めて窓まで這うも、風は少しもない。

 そして、苦悶の表情を浮かべて言うのだ。
「今朝もあちいよおおおおおおおおお」



 落雷で壊れたエアコンは全て修理に出した。
 修理が完了するのは二週間後、とのこと。

 この屋敷にエアコンがついてない部屋はない。
 他のメンバーが使っている使用人部屋もエアコン完備だ。
 それが誇りだったのに、現状は…

「おはよぉ…」
「おはよぉ…ツバキ…」
「……」
 食堂に行くと、そこには暑さでぐったりしたナツメとトウがいた。

 これに対して、
「よぉツバキ!」
「ご主人様、おはようございます」

 暑さに強いというユリとクレハは元気だ。
 しかし、二人とも既にしっかり汗をかいている。

「はぁ…みんな辛いよねぇ…。早く直んないかな…」
 呟きながら水を飲んでいると、あることに気が付いた。

「あれ、ヒイラギは?」
「そういえばまだ起きていませんね」

 いつもならとっくに起きている時間なのに…。
 少し心配になった私は、ヒイラギの部屋に向かった。

「ヒイラギ、起きてる?入るよー」
 ドアを開けると、そこには…

 ベッドから落ちた状態で、狼の耳と尻尾を出したヒイラギがぐったりしていた。

「ひ、ヒイラギいいいいいいい!!生きてるよね!?ねぇ生きてるよね!?」
 叫ぶと、うつぶせで倒れたまま、尻尾がへなへなと動き、

「いや…しんでる…。俺は冬オオカミ…。夏は屍と変すのが…さだ…め…」

「なんか厨二くさい発言だったけど死んじゃらめええええええええ!!」
 実にカオスな光景となった。



  + + +



 その後、ユリによって部屋から運びだされたヒイラギを、
 氷を大量にぶち込んだ水風呂に入れ、なんとか蘇生させた。
 普通の人間なら心臓が止まりかねないが、冬オオカミの獣人なら問題あるまい。

「ヒイラギのためにも何か涼しいことができないかなぁ…」
 バルコニーにて、庭の花に水を撒いているトウを眺めながら、私は考えていた。

 と、その時、水の入ったバケツを両手に持っているユリが庭を通りかかった。
 その近くにはホースを持ったトウが。

「あっ」
 気付いたときにはもう遅かった。
 トウは誤ってユリに水をかけていた。

 ユリは水が大の苦手である。
 したがって、

「ひゃあああああっ!」
 可愛らしい叫び声を上げながら、バケツの中の水をトウにぶちまけた。

「ぎゃあ!っ、何すん——」
「とっとととトウさんっ!目を、私の目を拭いて下さい!」
「お、おい!そんなに強く服引っ張るな…ってもう破けてるし!」

と、そこに、クレハがやってきた。
「おっ、二人とも仲いいなー!何してんだ?」
「クレハ!ユリを引きはがし…」

 水をかけられてから手放したホースを、トウが踏みつけた。
 その口は運悪くクレハの方に向いており、

「わああああああああっ!?」
 盛大に水を浴びた。

 三人ともご愁傷様…と思いながらその光景をぼーっと眺めて…


 次の瞬間、私は閃いた。


 照りつける太陽の下、
 日光を反射して輝く水飛沫、
 (端から見れば)はしゃいでいる(ように見える)少年少女。

 これらから連想できるものといえば——



「海だ!!」