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Re: 魔法使いの青春理論 ( No.15 )
日時: 2014/03/02 13:27
名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: zHdJFj8Z)

  05.


 新たなメンバーが加わった翌日。

 二階の自室から窓の外を見ると、庭にある小さな池のほとりに、
 クレハたち三人が立っていた。

 私はバルコニーへ出ると、杖を原寸大に戻して飛び乗った。
 そのまま下降しながら名前を呼ぶ。
「クレハー、ナツメー、トウー」
 三人が振り向くと同時に着地した。

「どう?体調は」
 歩み寄りながら尋ねると、クレハが太陽のように笑って答えた。
「もうすっかり元通りだ。ツバキたちのお陰で助かったよ。ありがとな」

 言いながら、クレハは私の頭を撫でた。
 髪を通して手の温かさが伝わってくる。
 なんだか落ち着くなぁ…。

 すると、ナツメが私に尋ねた。
「そういえばユリは?」
「ああ、ユリは依頼状を取りに行ったよ」

「そっか。ねぇねぇ、一つ気になるんだけど…」
 なに?と言葉を促すと、ナツメは少しだけ躊躇してから言った。

「この家に住んでいるのって、ユリとツバキの二人だけなの?」

「…そうだよ」
 少しだけ間をおいて、私は頷いた。

 ——ナツメたちには話すべきだよね。
 私たちの過去を。

「私もユリも、六年前に起こった『富豪襲撃事件』の被害者なの」

 すると、ナツメたちは目を見開いた。
「あの、犯罪ギルドが金品目的で富豪を襲った…!?」
 うん、と頷く。

「幼いときに親に捨てられたユリは、大富豪のスギノ氏に拾われて、
 使用人として働いていたのだけど、襲撃事件に遭って逃亡したの。

 私は家族と使用人全員で別荘へ避難する途中で襲われた。
 みんな倒れて、最後に私だけが残り、殺される——とその時、
 警察が駆け付けて、犯罪ギルドのメンバー全員が確保された。

 コウヤ家の屋敷の者は、私、コウヤ ツバキ—光夜 椿—だけが生き残った」

 そう、みんな帰らぬ人となった。
 父も母も、メイドも執事も庭師もコックも——


 そして、まだ七歳だった妹も——母のお腹にいた赤子さえも。


「幸運にもこの家が荒らされた形跡はなかったから、私はしばらくの間
 自室に引き込もっていた。

 何日か経って、ようやく外に出る気力が戻ると、
 私は修行するために森へ行った。今後、大切な人を失うことがないように。

 ——そこで、瀕死状態のユリと出会ったの」

 一際高い木のふもとに、ボロボロの衣服を身に纏った少女は倒れていたのだ。
 痩せ細り、傷だらけの姿で。

「私がユリを助けたことで、一緒に暮らすようになったの。
 ——そういうことよ」

 三人は、神妙な表情で私の話を聞いていた。
 今後は逆に私が尋ねる。

「あなたたちはどんな関係なの?」
「…故郷の田舎出身の幼馴染みで、一緒に村を出て都会へ行った」
 切り替えが早いのか、トウがぼそっと答えた。

 なるほど、幼馴染みか。

 …と、その時、ユリがちょうど帰ってきた。
「あ、ユリおかえり」
「只今帰りました。ご主人様、こちらの依頼でよろしいでしょうか」

 ユリが手渡した依頼状に目を通す。
 …うん、クレハたちの実力がどんなものなのか確かめるのに適している。

 まだしんみりとしているクレハとナツメ、無表情のトウに向かって、
 私は意味深な笑顔で言った。

「それじゃあ早速見せてもらうよ、実力を」