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- Re: 魔法使いの青春理論 ( No.20 )
- 日時: 2014/03/05 17:23
- 名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: oq1piOCI)
08.
色々とトラブルはあったが、何とか中心部まで辿り着いた。
「ここら辺…かな?」
「うん、魔法を使わずとも鳴き声が聞こえるね」
ナツメの言う通り、サル特有の甲高い鳴き声が聞こえてくる。
と、その時、近くの茂みがガサッと音を立てた。
するとそこから、赤い毛並を持つサルが、次々に顔を出した。
ざっと見たところ…百匹は超えている。
「…多くね?」
「ふ、増えすぎでしょ…」
初級モンスターの赤ザルは、攻撃力は弱いものの繁殖力が凄まじい。
それにしても、これは増えすぎだ。
私はポケットから取り出した杖を原寸大に戻しながら言った。
「ノルマは一人十匹ね。あと、あまり荒らさないこと!」
「っしゃ!やってやるぜ!」
クレハの声を合図に、私たちは一斉に飛び掛かった。
赤ザルは強力な魔法を使うほど強くはないが、三人がどんな風に魔法を使うのか
観察するために、早くノルマをこなしてしまおう。
魔力を込めて唱える。
「光陣よ——」
すると、十匹ほどの赤ザルの周りに、光魔法の魔法陣が数個現れる。
「数多の星を解き放て!」
魔法陣から、いくつもの光弾が放たれた。
それらをまともに受けた赤ザルたちは、間もなく消失した。
モンスターには、死ぬと身体が消失するものと遺るものとに分けられる。
赤ザルのような下級モンスターは消失するものが多い。
死骸が遺るモンスターの毛皮や肉は、商品として使われているのだ。
さて、三人を観察することにしよう。
まず目に入ったのは、火の魔法使いクレハだった。
…何だか一番荒らしそうだ。
「てりゃああああ!」
クレハは火炎放射を喰らわせている最中だった。
オレンジ色に燃え盛る炎が、赤ザルを苦しめ、消滅させた。
「…って、もう片づけたのかよツバキ!」
「うん!じっくり見させてもらうよ、クレハの魔法」
「そうか。じゃあ、オレの得意な魔法を見せてやる!」
クレハは顔の前で腕を交差させた。
「出でよ、炎球!」
そう唱え、交差した腕をバッと払うと、オレンジ色の炎の球がいくつか放たれた。
炎球は赤ザルのもとへ真っ直ぐに飛んでいき——
「バーンアウト!」
ちゅどーん!と一斉に爆発した。
「これがオレの必殺技、爆撃魔法だ!」
おお〜、と思わず拍手を送る。威力はかなりのものだ。
続いて、ナツメのほうを見る。
ナツメは呪文は唱えてないが、休みなしに攻撃していた。
赤ザルに喰らわせているもの…あれはおそらく風の刃だ。
相手の強さ的に呪文を唱えるほどではないと判断したのだろう。
不敵な笑みを浮かべながらの攻撃は、ドSらしさが表れていた。
最後に、魔法武器使いのトウに目を向けた。
魔法武器使いとは、文字通り「魔法武器」を召喚して使う者のことだ。
武器使いと言うが、魔法使いに分類されている。
魔法武器というのは、魔力で作られた武器のことであり、一つ一つに火、水などの属性がある。
武器を使いながら、その属性の魔法が放てるのだ。
トウは電気属性のものを中心に使うとのこと。
そして彼が今召喚している武器は剣だった。
ちなみに剣が一番得意な武器らしい。
トウはいつもの無表情ではなく、光のこもった瞳で赤ザルを見据えながら剣を振るっていた。
他より一際大きい赤ザルが、蹄で剣を受け止めた。
しかし、トウは焦らず、むしろ「待ってました」と言うような目つきになった。
途端、剣がバチバチと音を立て——
「スパークリング!」
唱えると同時に、まばゆい稲妻が赤ザルの身体を貫いた。
そのまま消滅した赤ザルを見送って、トウは私のほうを向いた。
「…ノルマ達成」
「オレもー!」「僕も!」「私もです」
同時に声が上がる。
まだ赤ザルは残っているが、これ以上駆除する必要はない。
しかし、赤ザルたちはまだ戦う気満々だ。
ってなわけで…
「よし、逃げよう!」
全速力で駆け出した。
…これ以上戦わないためには逃げるしかないのだ。
少し走ったところで後ろを振り向く。
すると…
ウギャー、と怒ったような鳴き声を上げながら、赤ザルたちは追いかけてきていた。
「ぎゃああああああ!!は、早くテリトリーから出るのよ!早く!」
「お、おう!」
そのまま全力ダッシュし続け…追いつかれることなく、なんとかテリトリーから抜け出せた。
モンスターはテリトリーから出ることはできない。
もう安全だ。
汗水一つ流してないユリを除いて、私たちは地面に突っ伏した。
「ぜえ…ぜえ…に、任務完了…」
「おぉ、おつかれ…はぁ…」
「追いつかれなくて…よかった…けど…疲れ…」
とりあえず息を整える。
すると、クレハがぽつりと呟いた。
「これって…青春?」
…確かに、皆でわちゃわちゃしながら進んで。
こうして逃げてきて、疲れたけれども何だか楽しくて。
そんな私の頭に、とある言葉が思い浮かんだ。
——青春謳歌系魔法ギルド。その名は百花繚乱。
その言葉に高揚感を感じながら、私は返事をした。
「…かもね」