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Re: 魔法使いの青春理論 ( No.25 )
日時: 2014/03/07 15:26
名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: oq1piOCI)

  09.


 その夜、私はギルド総統会へ提出する書類に手をつけていた。
 ギルド総統会とは、ギルドをまとめる最高機関のことである。

 残り少なくなったな、と思いながら手に取った書類を見て、あることに気が付く。
 その書類は新入メンバーの個人データ票で、名前の他に
 住所や誕生日などが記入必須だった。

 これは本人たちに書いてもらう必要がある。
 そう思い、私が今いるリビングから、
 全員集まっているであろう食堂へ行こうとすると、

「…俺が書く」
 不意にリビングへやって来たトウがそう言った。

「あ、トウ。じゃあお願いするよ。クレハとナツメの住所も書ける?」
「ああ」
 トウは無表情で頷くと、ペンを取って書き始めた。

「それにしても、よく住所書いてもらおうとしていることが分かったね」
「手伝おうと思ってここに来たら、個人データ票が見えたから」
「へぇ、目がいいのね」
「…まあな」

 その後は黙々とそれぞれの作業を進めた。

(よーし、ラストスパートだ)
 仕上げに入る前に、一旦手を止めて伸びをする。すると、

「…ツバキ」
 トウが話しかけた。
 ——名前を呼ばれるのはこれが初めてかも。

「ん?」
 トウの方を向くと、彼も私に顔を向けて尋ねた。
「このギルド名の由来って何だ?」

 尋ねられて気が付く。
 そういえば、まだ三人に話してなかった。
 少し反省してから、私は説明した。


「百花繚乱って様々な花が咲き乱れているって意味でしょ。
 そのように、様々な花——つまり個性豊かなギルドメンバーたちが
 乱れ咲きの花の如く騒いだり魔法を繰り出したりする、
 賑やかなギルドにしたいと思ったからよ」


「…成程。いい由来だな」
 そう言ったトウを見て、私は驚いた。

 戦闘以外では今まで無表情を保っていたトウが、控えめながらも笑顔を見せていたのだ。

 その、小さい花が咲いたような表情にしばし見とれてしまった。
 すると、はっとした表情に変わり、トウは下を向いて再び書類に手をつけた。

 あれ…もしかして照れてる?
 ふとそう思いながらも、「あ、ありがと」と返して、私も仕上げに入る。

 そして、二人ほぼ同時に全て書き終えた。

 今度は盛大な伸びをする。
「ふ〜、終わっ…」

「わっ!!」

「うわあああ!!…ってナツメ!」
 背後から私を驚かせたのは、笑顔を浮かべたナツメだった。

「もう、驚かせないでよ!」
「ははは、ごめんごめん。
 人見知りなトウがツバキと仲良くできているのが見えて安心したよ」

「よ、余計な世話だ」
 ナツメの言葉に、トウは少し焦ったように返した。

「ツバキ、トウはこの通り無愛想だけど、根はいい奴だからね。
 ユリとツバキが助けてくれたことも、僕らの中では一番感謝しているから!」

「な、ナツメっ!」
 上ずった声を上げるトウに、ナツメはくすくす笑いながら尋ねた。
「あれー?トウ、二人が助けてくれたこと嬉しくないの?」

 すると、トウは一瞬固まり、やがていつもの無愛想に戻ると、
 目を反らしながら言った。

「…別に、嬉しくない訳じゃない」

 そして、書類を私に無言で渡すと、早足に去ってしまった。

「まったく、トウは昔から替わらないなぁ」
 呆れ顔に親しみのこもった笑みを浮かべて呟くナツメ。

 書類に書かれた整った字を見て、僅かに朱が差していた頬を思い出し、
「ほんと、素直じゃないね」
 と、私も笑った。