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- Re: 魔法使いの青春理論【只今短編】 ( No.50 )
- 日時: 2014/03/15 15:07
- 名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: j.vAWp8a)
14.投げナイフと水
オレ——クレハは、ツバキの屋敷の庭園を通りかかっていた。
ここには色とりどりの花が綺麗に咲いていて、
オレは気分転換するのによく訪れている。
主に庭園の管理をしているのは週に三回ほど来る庭師だが、
ガーデニングが好きだというツバキもしょっちゅう水を撒いている。
花を眺めながら歩いていると、奇妙な音が聞こえた。
木の幹を刃が貫くような音だ。
ちょうど庭にある大きな木のほうから聞こえる。
「今日は庭師さんは来ない日だよな…誰だ?」
疑問に思ったオレはそこへ向かった。
すると、そこにいたのは…
「はっ!」
木の幹を標的に刃物を投げているユリだった。
「おう、ユリ!」
声をかけると、彼女は木に歩み寄る足を止めて「クレハさん」と軽く頭を下げた。
「ユリ、武器の召喚もできるのか?」
「はい、投げナイフだけですが…」
ユリは涼しい顔で言った。
「この木、いくら傷がついても再生するので、いつもここで練習しているのです」
幹に刺さったナイフを抜く。
すると、刺し跡が綺麗に再生された。
「ほぇ〜、魔力を持つ木なんだ。なぁなぁ、ナイフ投げるところ見せてくれよ!」
「…見たいのですか?分かりました」
ユリは木から十五メートルほど離れると、ナイフを八本召喚した。
それを片手に四本ずつ持ち——
驚くほどの速さで放った。
さらにもう八本召喚し、息をつく間もなく放つ。
木の幹には、合計十六本のナイフが一つ残らず刺さっていた。
「おおおすげえ!全然目で追えなかったぜ!」
「ありがとうございます」
「武力の魔法使いで空も飛べてナイフまで使えるなんて、
ユリには弱点なんてないんだな!」
すると、ユリは少し恥ずかしそうに首を振った。
「そ、そんなことはないです。私にも弱点はありますよ。それは——」
ユリが言いかけたその時だった。
突如、水が勢いよくかかってきた。
「ぶへぁ!!な、なんだいきなり!?」
「ぎゃああああ!二人ともごめええええええん!」
声がした方を向くと、そこにはホースを持ったツバキがいた。
「いや、顔が濡れたくらいだし、これくらい大丈夫だ!心配いらね——」
次の瞬間、服の裾をぐいっと引っ張られた。
そちらを向くと…
「く、クレハさん…!めめめ…目を拭いてください…!」
目をぎゅっと瞑っているユリが、冷静さを失った声でそう言った。
オレと同じく、ユリも顔に水がかかっている。
「ゆ、ユリ…?」
「はっ早く拭いてください…!目が開けられない…!」
ユリの怪力で引っ張られている服がメキョメキョと音をたてている。
今にも破れそうだ。なんと恐ろしい。
…ってそれより、
「わあああ!ユリ、ごめんね!」
「いえ…私こそかたじけないです、ご主人様…」
ユリの顔をハンカチで拭くツバキに尋ねた。
「もしかして…ユリって水が苦手なのか…?」
すると、ツバキは苦笑いして頷いた。
「うん、そうなの。ユリは強いけど、誰にでもあるように
苦手なものだってあるんだよ」
ユリは更に恥ずかしそうに俯いて、「そういうことです…」と呟いた。
…そっか。
ユリだって女の子だもんな…。