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Re: 魔法使いの青春理論 ( No.54 )
日時: 2014/03/19 22:18
名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: LCLSAOTe)

   【第三章 過去と今—past and present—】



  16.椿色リコレクション


「癒しの光を捧ぐ——トリート」
 治癒魔法を詠唱すると、少女の膝の怪我は綺麗に完治された。

「わぁ…!もう痛くない!ありがと、お姉さん!」
 にこっと笑う少女の隣で、少女とよく似ているが彼女よりも大人びている
 もう一人の少女が頭を下げた。
「あ、あのっ、妹の怪我を治してくれて、ありがとうございますっ」

「いえいえ。今度は転ばないようにね」
 にっこりしながら言うと、怪我をしていた少女——妹は、「うんっ」と頷いた。

「では失礼します。ほ、本当にありがとうございましたっ!さ、行こう」
「うん、おねえちゃん!お姉さん、ありがとう!」
 互いに手を振り、姉妹は手を繋いで川原から去っていった。

「ツバキ、治癒魔法も使えるんだな!」
 隣で事の成り行きを見守っていたクレハが感心したように言った。
 その横にはトウもいる。

「でも、治癒魔法って難易度マックスだから成功するほうが稀なんだよね」
 成功してよかった、と息をついた。

 私たち三人は依頼をこなしてきた帰りなのだが、
 その途中にさっきの姉妹に会ったのだ。
 そして、妹が膝に負った怪我を私が治した、ということだ。

「それにしても懐かしいなぁ…」
 思わずそんな言葉をもらす。

「何が懐かしいんだ?」
「妹のこと」

 そう答えると、クレハははっとした表情になった。
「そっか、ツバキの家族は…」
「うん、もういない。でも今はクレハたちがいるから寂しくなんかないよ」

 そう言ってから、私はその場に腰を下ろした。
「ねぇ二人とも、私の思い出話、聞いてくれない?」
 二人は少し驚いたが、「おう」「…ああ」と頷いて並んで座った。


「私にはリンゴ—林檎—って名前の妹がいたの。

 私たちは友人が羨むほど仲が良かった。
 リンゴは私を慕ってくれたし、私もリンゴを深く愛していた。

 やがて、母が第三児を授かったの。

 リンゴもついにお姉ちゃんになるね、って喜んでいたところで
 あの富豪襲撃事件が起こり、亡き人となった。

 あんなにも可愛かったリンゴは、もうこの世にいない。
 でもね、私はこう思っているの。

 リンゴは私の記憶の中で、今も生きているってね」


 日光を反射させてきらきらと輝いている川を眺めながら、私は郷愁に浸った。

「…ツバキはいい姉ちゃんなんだな」
 クレハが穏やかにそう言った。

 トウは思い詰めた表情をして呟いている。
「深く…愛していた…」

「ん?それがどうかした?」
 私が尋ねると、トウは顔を赤くして首を振った。
「な、なんでもない。…その…そう思えるの、羨ましくて…」

 ごにょごにょと口ごもるトウの隣で、クレハが懐かしむように言った。
「オレには兄弟はいなかったけど、
 小さいときからナツメとトウと一緒にいたよなー」

 私は小さいとき、という言葉に食らいついた。
「ねぇねぇ、クレハたちがどうやって出会ったのか教えてよ!」
「おう、もちろんだぜ!」

 ニカッと笑って、クレハは話し始めた。



      *リコレクション(recollection):思い出、回想