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Re: 魔法使いの青春理論 ( No.56 )
日時: 2014/03/29 14:07
名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: oq1piOCI)

  18.藤色フィーリング


 俺の両親は、俺が幼い頃から常に言い争いをしていた。

 母親は俺の愛情を過剰に求め、滅多に外出させようとしなかった。
 そして、いつもこう言っていた。
「お母さんはあの男と恋をしてこんな不幸になったのよ」と。

 俺はそんな母親の歪んだ愛情が嫌で嫌で堪らなかった。

 ただ、母親の言っていることは紛れもない真実だと思った。
 だから、俺はこう考えてふさぎこんでいた。

「父と母が恋に落ちたから俺はこんな目に遭ってるんだ。
 恋というくだらないことをしたせいで。
 ああ、恋とはくだらないものなんだ」


 やがて両親は離婚した。
 俺は当然の如く母親に引き取られた。

 ようやく離れて清々したのか、母親は執拗に俺を求めることはなくなり、
 俺は自由に外出ができるようになった。

 しかし、家に籠っていたがために友達などおらず、
 ただ玄関の前で立ち尽くすことくらいしか出来なかった。

 まずは近所の散歩などをすべきだが、俺には好奇心の欠片もなかったため
 外の世界へ一歩踏み出す勇気が出なかった。

 そんなある日、隣の家の子どもであるクレハに誘われて初めて外へ遊びに行った。

 その解放感とクレハの明るさから、俺は初めて心を開いた。
 閉じ籠っていた殻を破ることが出来たんだ。


  + + +


「今も恋はくだらないって思ってるの?」

 開口一番に尋ねると、トウは首を横に振った。
「いや、今はそれほどでもない。…つい最近までは思っていたが」
 トウは答えながら私の顔をちらちらと見ていた。

「そっかぁ。…あと、さっきから私を見ているみたいだけど、どうかした?」

 すると、トウは照れた顔をさらに赤く染めてそっぽを向いた。
「な、何でもない」

 何でもなくなさそうだけど、私はとりあえず気になることを尋ねた。
「で、ナツメとはどうやって出会ったの?」

 クレハが答える。
「ああ、ナツメとはオレが六歳のとき…」
 そこで言いとどまると、クレハは少しだけ切なそうな表情をした。

「実はある事件があってから、ナツメは一人でいることが多くなったんだ。
 そこにオレたちが来て、いつも誘っているうちに仲良くなっていった」

「ある事件…?」
 私は、今ユリと依頼をこなしているであろうナツメを想うのだった。



      *フィーリング(feeling):感覚、感情