コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 魔法使いの青春理論 ( No.57 )
- 日時: 2014/03/22 11:01
- 名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: Z6SnwTyI)
19.棗色トラジェディー 上
ナツメさんと私——ユリは、数人の魔法使いと戦っていた。
「悪徳商人の確保」という依頼を引き受けた私たちは、
その商人の屋敷に侵入し、彼を追い詰めたのだが、
商人は最後の切り札として仕え魔法使いたちに自分を守らせるよう命じた。
仕え魔法使いがいるという情報は掴んでなかったため最初は苦戦したが
六人いた魔法使いを、今は四人にまで減らしていた。
私は仕えの中で一番強い魔力を持つ魔法使いに
とどめの一撃を喰らわせた。
「ぐはぁっ」
魔法使いが倒れる。
(…よし!)
このまま二人で倒せるかもしれない。
——そう考えた私は、一瞬油断してしまった。
「闇を散らすは銀色の衝撃——メタルインパクト!」
横から呪文が聞こえた直後、私は脇腹に重たい衝撃を感じた。
それは鋼の巨塊だった。
今さっき呪文を唱えた鋼の魔法使いが生み出したものだろう。
次の瞬間には、私の身体は軽く吹っ飛び、屋敷の壁に激突していた。
「ユリ!」
ナツメさんの声が、少し霞んで聞こえる。
「っぐ…!!」
かなり強力な魔法だった。
駄目だ、脇腹が痛くて立ち上がれない…!
と、踞ったままの私の後ろ襟を、さっきの鋼の魔法使いが掴んで持ち上げた。
首筋にナイフが突きつけられる。
「こいつを刺されたくなかったら降参しろ…それで見逃してやるよ」
鋼の魔法使いがナツメさんに言った。
蹴飛ばしてやりたいところだが、酷くダメージを受けていたため
何も出来ず、されるがままでいるしかなかった。
——ふと、ナツメさんの様子がおかしいことに気付いた。
無言のまま、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくるのだ。
俯いているため、その表情は伺えない。
「…んだよ」
鋼の魔法使いが怪訝そうにぼやく。
するとナツメさんは顔を上げ、彼を睨みつけた。
「…ユリを放せ」
いつもより低い、怒りを含んだような声で言った。
普段は見せたことのない雰囲気に、私は目を見開いた。
その威圧感に少しだけたじろぐも、鋼の魔法使いは気を取り直し、
ナイフを更に押し当てようとした——その時だった。
突如、ナツメさんは彼の首筋に空気砲を放った。
「うわっ!?」
彼は後ろに倒れながら、私とナイフから手を放した。
そのまま倒れこむ私を、ナツメさんが左腕で抱きとめた。
そして、空いているほうの右手を掲げた。
「エンゲージドシルフ!」
シルフ…風の精霊の名。
神や精霊の名を唱えると、より強力な魔法が仕える。
つまり、ナツメさんは強い魔法を放とうとしているのだ。
「天つ風、地に降りて我を助けよ!」
暴風が吹き荒れた。
それはこの場にいるすべての敵を巻き上げた。
商人と仕え魔法使いたちの身柄を預けた私たちは帰路についていた。
私は、もう普通に歩けるほど回復している。
他愛ない会話をしながら歩いていた私とナツメさんだったが、
ふとナツメさんが立ち止まった。
「ユリ、その…さっきは取り乱してごめん」
「いえ、ナツメさんのおかげで助かりました。
…ナツメさんは仲間想いなのですね」
私がそう言うと、ナツメさんはそっと微笑んだ。
その微笑に少しの悲しさが含まれているのに気付くと、
ナツメさんはその表情のままこう言った。
「聞いてほしいんだ。僕がこんなにも仲間を守りたいわけを」