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Re: 魔法使いの青春理論 ( No.58 )
日時: 2014/03/23 23:11
名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: FMSqraAH)

  20.棗色トラジェディー 下


 僕は、贅沢ではないものの幸せな家庭で育った。
 両親は子ども想いだったし、友達もたくさんいた。

 そんなある日、僕は友達の一人であるレン—蓮—と、
 遊び半分で廃墟の地下室に忍び込んだ。

 そこが犯罪ギルドの隠れ家だと、部屋のドアを開けてから気付いた。

 そのギルドは子ども相手でも容赦せず、僕らはメンバーに迫られた。
 覚えたての魔法で対抗しようとしたけど、大人に敵うわけもなく、
 僕が怪我を負って捕らわれてしまった。

 一人になったことで狼狽するレンを、ギルドメンバーは笑い飛ばし馬鹿にした。
 傷付くレンを、僕はただ見ていることしかできなかった。

 ギルドリーダーがレンを捕らえようとした直後、
 彼らを追っていた魔法使いが駆けつけ、僕らは無事に保護された。

 しかしその後、レンは僕の前から姿を消した…否、村からいなくなった。

 レンの友達によると、僕を助けられなかった罪悪感と、
 僕を見ることであの時の恐怖と悔やみを思い出してしまう、
 この二点が姿を消した理由らしい。

 ——あの時、レンはとても怖い思いをしていたんだ。
 そして、対抗できない悔しさを感じていたんだ。

 レンの当時の心境を痛いほど理解した僕は、
 それ以来仲間の大切さを強く意識するようになった。

 それと同時に、僕はふとこう考えついた。


 レンがいなくなってしまったのは僕のせいじゃないか。


 弱い僕が捕まったせいで、レンはあんな思いをさせられた。
 そうだよ、僕のせいでレンは…!

 そう思った僕は、再び友達を失うことを恐れ、一人でいることを望んだ。
 友達はひっきりなしに誘ってくれたが、僕は全て拒んだ。

 だけど、しばらく経ったある日、二人の子どもが僕に話しかけてきた。
 僕は「一人でいたい」と言ったが、彼らはお構い無しに僕の手を引っ張り
 一緒に遊んでくれた。

 それから、クレハ、トウと名乗った二人は、いつも僕を誘ってくれた。
 クレハとトウとつるんでいるうちに、僕は真の答えを見出だした。

 弱いなら強くなればいいんだ。怖いことから逃げては駄目だ、と。

 このことが、今の僕に繋がっているんだ。



      *トラジェディー(tragedy):悲しい事件