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Re: 魔法使いの青春理論【略して“まほ論“】 ( No.67 )
日時: 2014/03/28 20:37
名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: cSy8Cn7x)

  22.藤色フィーリングなう


 ギルドの本拠に戻っても、俺—トウ—は同じことばかり考えていた。

 ツバキのことだ。
 久し振りに過去を振り返ってからというもの、そればかりが頭に浮かんでいる。

 一ヶ月半ほど前、ピンチに陥った俺たちの前へ飛び降りてきた少女。

 結界を張るための光を纏った、その勇ましくも可憐な姿に、
 俺は"自分でもよく分からない"感情を今でも抱いていた。

 口には出さずに唸りながら自室を出る。
 すると、どこからか寝息が聞こえてきた。
 見ると、クレハが自身の部屋のドアを開けっ放しにしながら爆睡していた。

(…ったく、風邪ひくぞ)
 心の中で言いながら布団をかけた。

 階段を降りてリビングに向かう。
 ツバキがいるはずなのだが、やけに静かだ。
 おそらく彼女も…

「すぅ…」
 案の定、リビングのソファに腰かけて眠っていた。


 ——その無防備な寝顔を見た瞬間、心臓がドキッと高鳴った。


「…っ!?」
 思わず左胸に手を押しあてる。
 同時に顔が火照った。

(な…何だ?今のは…)
 疑問に思いながらツバキを凝視する。
 すると再び心臓が跳ね上がった。

 恥ずかしいような感覚。
 だけど何故か心地よさを感じる。

 心臓が落ち着くのを待ってから、俺は再度ツバキを見た。
 また心臓が高鳴るものの、先程より平静さを保っている。
 そして、ツバキを見つめたまま、無意識に言葉が出た。



「…なんでお前のことで頭が一杯になるんだろうか」



「ただいまー」
 不意に声がして、肩がビクッと跳ね上がった。

 ツバキから離れ、偶然別のソファにかかっていたタオルケットを掴み、
 それをツバキにかける。
 少ししてから、帰宅したユリとナツメがリビングへ入ってきた。

「お、おかえり…。その、今リビングに来たらツバキが寝ていて…」
 そう言うと、ユリが「では私がお部屋までお運びします」
 と、ツバキを抱き上げた。
 その姿が見えなくなってから、ナツメがとんでもないことを言った。

「トウ、さっきの話、偶然聞いちゃった」

「え…——っ!?」
 瞬間、羞恥が込み上げてきた。

 そんな俺に対して、ナツメは妙に爽やかな笑顔で続ける。
「悪気があったワケじゃないんだ。もうトウたちも帰っているかなーと思って
 風伝えの魔法を使ったら偶然…ね。
 大丈夫、ユリには聞こえてないから」

「う…あう…」
 偶然なら仕方がない。そう思った俺は、情けない声を出すだけだった。

「教えてあげるよ、トウ」
 ナツメのその言葉に顔を上げる。

「…何をだ?」
 訊くと、ナツメは真剣な目付きで答えた。



「トウはツバキに恋してるんだよ」



 その言葉を飲み込むのには時間がかかった。

「へ…?こ、恋…!?」
「うん。上手く説明は出来ないけど、紛れもなく恋だね」
 悪戯げに笑うナツメ。

「これを機に、恋について見直してみたら?
 トウが思っているほど悪くはないものだから」
 そう言い残し、ナツメは階段がある方へ去っていった。

「…恋」
 小さく呟いてみる。

 以前は呟くのも聞くのも嫌だったその単語。
 極端に嫌うことがなくなったのはいつからだったか。

 ……そうだ。ツバキと出会ってからではないか。

 くだらないと思わなくなった訳は、ツバキと恋がしたいと
 無意識のうちに思ったからなのだろうか…?