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Re: 魔法使いの青春理論【略して“まほ論“】 ( No.79 )
日時: 2014/04/03 07:39
名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: oq1piOCI)

   【第四章 潜入—infiltrate—】



  24.


 初夏のある日、私——ツバキは依頼ポストにて、
 一つの依頼状をじっと見つめていた。
 それにはこう書いてある。


『とある人物Kの密偵
 ランク:B
 ↓引き受ける際はこちらにお電話を
 ***-****-****

 報酬:100,000』


 とのこと。
 私の目を引き付けているのはもちろんお金ではなく——

「ほっ…ほーしゅーじゅうまんえん…!!」

 …前文撤回、お金である。
 私、お金に関しては結構貪欲なのである。

 ランクとは依頼の難易度のことで、低い方からD・C・B・A・Sに分けられる。
 報酬はランクが上がるほど高騰する。
 Bランクはだいたい7000円ほどで、高くても10000円程度なのだが…。

「Sランク並の報酬…これを見逃すわけにはいかないわっ!」
 壁に貼り付けてある依頼状をひっぺがし、私はギルドへと急いだ。


  + + +


「あれ?ここにあったBランクの依頼状、持っていかれちゃってる。
 狙っていたのになぁ」
「ああ、あの報酬が高いやつ?あれ、やめておいたほうがいいよ」
「ふぇ?どういうこと?」

「報酬が高額な理由はこう言われているの。
 あの依頼を遂行しに行った人は全員、そのまま失踪してしまったって」

「失踪?じゃあ、依頼は前から存在するけど、未だに未解決ってこと?」
「うん、そういうこと」


  + + +


「…ってな訳で、この依頼、一人じゃ難しそうだから、
 メンバー全員でやりたいんだ。いいかな?」
 私の問いかけに、ユリ、クレハ、ナツメ、トウは「おっけー」と頷いた。

「密偵とかかっこいいよな!んじゃ、さっそく電話してみよーぜ」
 クレハがそう言ったときには、すでに電話番号を打ち終えていた。
 電話はすぐに繋がり、電子通知が流れる。

「こちらの依頼は、"豪商カシワギ氏の悪事を暴く"ことでございます」

 豪商カシワギ氏…かなりの有名人だ。
 ここら辺にある商業組合の総帥をつとめている、若手のエリート。
 …確かに、何か裏がありそうだ。

「よーし!さっそく始めるわよ、カシワギ宅への潜入計画を!」
「おー!」「かしこまりました」「わ〜楽しそうだね」「…」
 こうして、カシワギ邸潜入ミッションが始まった。


  + + +


 一本のロウソクだけが闇を照らす部屋の中に、一人の男が立っていた。
「最近、侵入してくる魔法使いがめっきりいなくなってね…退屈だよ」

 男の前には、一人の青年がいた。
 自由に動けない状態で。

「君も退屈しているだろう?戦えずに鎖で繋がれてさ」
「…黙れ」
 青年が殺意のこもった声で言うも、男は動じず、むしろ笑った。

「まぁ、待っていればそのうち来るだろう。その時は存分に暴れさせてあげるよ」
 男はそう言って、青年の灰色の髪にポンと手をあてると、立ち去っていった。

「それまで大人しくしているんだよ?ペットの狼クン」

 最後にそう言い残して。

 青年は顔を上げると、
 闇の中で光る緑色の目で、男が消えた方を睨んだ。