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Re: 魔法使いの青春理論【略して“まほ論“】 ( No.83 )
日時: 2014/04/05 10:52
名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: LCLSAOTe)

  26.


 僕——ナツメは、執事に追われていた。

 大広間の外に出て、使用人たちの攻撃が止んだところではぐれたことに気付き、
 戻ったところを、その場に一人残っていた執事に襲われたのだ。
 で、今はひたすら廊下を走っている。

 姿を消していたメンバーたちが心配だが、今は逃げることで精一杯だ。
 だが、いつまでも逃げているわけにはいかない。

「こうなったら…正面から向き合いますか」
 ちょうど「音楽室」のプレートがかかった扉が目についた。
 ここでいいかな、と中に入る。

 そこは、ピアノと無数の戸棚があるだけの、白くて広い部屋だった。

 当然のように執事も部屋に入ってくる。
 僕らは対峙した。

「ここの使用人はただ主人に媚びへつらうだけじゃないみたいだね」
 挑発気味に言うも、執事は怒らず、むしろ微笑を浮かべて
「ええ、旦那様をお守りするため、使用人は皆それなりの実力を持っています」
 と返した。

「じゃあダンナサマの裏の顔も全員知っているんだ?」
「そんなバカな。下級の者はただ護衛のためと思って動いているだけですよ。
 私はともかく」

「ははん、そうか」
 僕の笑みに応えるように、そよ風が発生する。


「じゃあ、僕になぶられて情けない姿になったあなたを問い質すことにするよ。

 ——ね、執事サン?」


 言い終えると同時に、僕は旋風を放った。

 執事は軽くよけながら長針を数本召喚し、僕に向けて投げた。
 なるほど、武器使いか。
 そういえばさっき、綱の上にいたな、この人。

 僕はそれらを風で巻き上げ執事に返した。
 執事は飛ばされながらも針を回収した。

「なるほど。さすが風の魔法使い、接近戦はさせてくれないのですね」
 執事はそう言うと、にやりと笑った。

「なら…これを使うしかありませんね」

 言い終えたとき、彼はすでに銃を召喚していた。
 間髪入れずに、それは発砲される。

 すぐさまよけるも、銃弾は僕の服を掠めた。
「私は銃撃の魔法使い。一番得意な武器はなんと言っても銃なのです」
「銃撃の魔法使いか…風で対処するの難しいから苦手なんだよね」

 愚痴っている間にも、執事は続けざまに撃つ。
 僕はギリギリよけるが、魔法を使っている暇がない。

 けど、銃には弱点がある。

「おや、弾がきれてしまいました」
 そう、銃弾には限りがある。
 弾を入れ換えるのには時間がかかる…それが弱点だ。

(今だっ!)
 呪文を唱えようと息を吸った——その時

「包囲召喚(サークルサモン)」

 僕より先に、呪文が唱えられた。
 気が付くと、僕は何本もの銃口を向けられていた。

「——っ!」
 思わず身を竦める。その隙に…

「一斉発砲(ユニゾンショット)!」

 銃弾が一気に放たれた。

 すんでのところで横へよけるが、一発が足に命中した。
「ぐっ!」
 痛みに眩んだ目は、次の瞬間、信じられない光景を映した。

 メイスを持った執事が目の前にいた。


 それをはっきりと理解する前に、執事は僕の腹をメイスで強打した。


「がはっ——!!」

 面白いように吹っ飛んだ僕は棚に衝突した。
 その反動で戸が開き、中のものが飛び出して散乱する。
 それらと一緒に、僕も床へと落ちる。

「う……くっ……」
 衝撃で霞む目で執事を見ると、やはりあれらの魔法は強力だったのか、
 息を乱した彼は攻撃を止めていた。

 それを見て安心すると、頭上に紙が落ちてきた。
 それを何気なく手にとって眺め——

 僕は目を見開いた。

 それは、カシワギのサインが書かれた、麻薬の取引状だった。