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Re: 魔法使いの青春理論【ひたすらバトル】 ( No.99 )
日時: 2014/04/19 18:27
名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: /qYuqRuj)

  34.


 私は杖から降り、金網から部屋の中を覗いた。

 そこにいる人間は、立った状態で両手首をそれぞれ鎖で繋がれていた。
 特徴は、髪が灰色であること以外、天井からは確認できない。

(この人…どう見ても捕まっているよね…?)
 そんなことを考えながら、もっとよく見ようと金網に体重をかけた。
 すると…

 ミシッと音を立て、金網が天井から外れた。

「ん?」
 金網に乗っかっていた私も、一緒に落下していた。
 あれ…私、そんな重かった…?なんて思う間もなく、

「うわあああああ!!ぐへっ!」
 本日何度目かの落下。
 今度は飛行魔法を使えず、床に直撃した。

「痛たたた…」
 頭をさすりながらゆっくりと身を起こす。

 すると、目の前の捕らわれた人間と目が合った。

 彼は、くせのある灰色の髪に深緑の瞳を持つ青年だった。
 年齢は私と同じくらいだろう。
 彼はきょとんとして落下してきた私を見ていたが、

「な、何だお前!」
 警戒するように言うと、オオカミの耳と尾を出現させた。

 ——獣人だ。

 獣人とはその名の通り"獣"と"人間"が合体した種族だ。
 ほとんどの獣人は、人里離れた獣人の村に住んでいるため珍しい。
 彼の耳と尾は興味を引くものだったが、私は別のものに目をひかれた。

 人間姿では深緑色だった瞳が、獣人姿になった途端、
 エメラルドのように明るさを増したのだ。
 思わず言葉が洩れる。



「目の色、綺麗…」



 呟いてから、はっと気付く。
 ここはまず名乗るべきだった。

「え…!?…おい、お前、今何て…」

「うぉっほん!私はツバキ。ギルド百花繚乱のリーダーよ。
 今日はここの家の主人の内偵に来たの。あなたは?」

 青年はぽかんとしていたが、やがてそっぽを向いてこう言った。
「…俺はここの主人のペットだ」

 ペット?
 つまり、ペットが首輪で繋がれているように、
 彼は鎖で繋がれて捕らわれているってこと?

 そう考えついた瞬間、私は激しい憤りを覚えた。

「ペットって…!?あなた獣人でしょ!?
 ヒトの意思を持つ者をペットにするなんて最低なことだよ!」
「俺だって好きで飼われてんじゃねぇ」

「じゃあ——」
 私は杖を持って立ち上がった。

「私があなたを解放する」

 すると青年は目を見開いた。
「なっ…!?で、でもこの鎖、かなり頑丈だから壊せな——」
 青年の言葉を遮るように、杖を持つ手を掲げて唱える。

「天の光は闇を切り裂き、新たな道を造り出す——ライトニング・ブレイド!」

 杖を振るう。
 その尖端に現れた光の刃で、鎖を断ち切った。

「…!!」
 青年は呆然として、自由になった手首を見つめていた。

「一瞬で壊した…!?さっきの魔法、かなり魔力を使ったんじゃ…!?」
「私は、人助けのためなら、魔力なんていくらでも売るからね」
 えへん、と胸を反らした。

「これで自由にどこへでも行けるわ」
「自由…どこへでも…」

 青年が私の言葉を繰り返した。
 その表情は、どこか悲しげで…

 …どうしたのかな?
 すると、青年は消え入りそうな声で言った。

「でも…俺には行くところがない…」

 私がその言葉の意味を理解する前に、彼はもう一度呟いた。



「俺を迎えてくれる人なんて、この世に一人もいねぇんだよ…!」



 次の瞬間、私は彼の手を握っていた。

「…っ?」
 驚く彼に、私は笑顔でこう言った。



「じゃあ、私たちのギルドに入らない?」



 その時、背後から声がした。
「それはいけないね」