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Re: 白銀の小鳥 Form of the love【短編集】 ( No.21 )
日時: 2014/03/13 21:32
名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: GC8OxdMB)


《本編》
Episode3 君と空の色


こんにちは。
本日の物語は、とある病の少女のお話です。
“全色盲”あなたは聞いたことがありますか?

「全色盲とは

 色を見分けることが全くできません。
 色覚がないので全ての物が黒色、 灰色、白色で見えます。

 全ての物がモノクロ・テレビのように、
 ただ白黒に見えだけの比較的珍しいタイプの色盲です。

 世界的には3万人に一人と言われています。」

これは一人の少女のお話。
色のない世界で、彼女の見つけたものとは。

「君と空の色」
それでは始まり、始まり。

〔character〕
蓑川 彩葉 ミノカワ イロハ

宮田 冴里 ミヤダ サエリ

中村 秋人 ナカムラ アキト

    ──‥*※*‥──

産まれたときから“色”を知らない。
黒と白と灰色、それが私、蓑川彩葉の世界の全てだった。

産まれたてのとき。
私の目が色を映さない『全色盲』と知り、
お母さんは大泣きして体調を崩してしまったらしい。

幼稚園のとき。
名札の色が見えずにクラスを間違えては先生に呆れられ、
皆と“色鬼ごっこ”で遊ぶときに
必ず仲間はずれにされていた。

小学校のとき。
幼稚園からの持ち上がりが多いからか、
遊びでよく仲間はずれだった。
高学年になると孤立し、悪口を言われた。

中学生になると本格的な『いじめ』が始まる。
見も心もズタズタで、だけどお母さんの前では
私はいつも笑っていた。

そして、高校一年生の夏。
私は君に出会った。

八月、私は親友の宮田冴里と海に来ていた。
灰色の水は白い光がキラキラとしていてとても綺麗だ。

「ねぇ、彩葉!泳ごうよ〜」

水着姿で仁王立ちしている冴里。
その前にはバスタオルに包まる私。

「だ、だって……泳げないもん。」

全色盲は通常よりも目が弱い。
それに私は泳いだことがなかった。
全く、冴里は何で私と来たのだろう。

「も〜。じゃあ私泳いでくる!
 彩葉、待っててね!」

冴里はダッシュで海に駆ける。
相変わらず行動が早い。

遠くの空には飛行機雲が浮かんでいた。

    ──‥*※*‥──

冴里が泳ぎ始めて五分くらいたった頃。
私に声をかける人がいた。

「ね、蓑川さん?」

「え……中村くん!?」

驚いて振り向けば、
そこには同じクラスの中村秋人がいた。

「さっき宮田もいたでしょ。
 蓑川さんは泳がないの?」

中村くんは何とはなしに私のとなりに座る。
そういえば、冴里と中村くんは同じ中学だっけ。

「うん……泳げない。
 ちょっと目が弱いんだよ」

変だと思うかな、と思ったら中村くんは普通にそうなんだ、と頷いた。
冴里がこちらに手を振り、中村くんを見ると驚いたのが見える。

「じゃあ俺と同じだ。
 俺も目が弱くて泳げない」

何でもないように中村くんはそう言った。

そしてさらに。
彼は驚きの言葉を放った。

「色盲って…病気なんだ。知ってる?」

音を立てて、私の時間が一瞬止まったような気がした。
私と同じ病気、そう思うといっそうまじまじと中村くんを見つめてしまう。

「……私も、色盲なんだよ」

今度は中村くんが驚く。
波の音がどこか遠くに聞こえた。

「中村くんは……何色が見えないの?」

きっと彼は普通の色盲だろう。
ただ一色の色が感知できない、一般的な色盲。

「青」

中村くんはどこか寂しげにそう言った。
その瞳は灰色の海を映している。

青が見えない。
それはこの海と空の色がわからないことと一緒だ。
何故彼はこの海岸に来たのだろう。

「海が見たかったんだ。
 やっぱり……灰色。きっと青いんだよ。
 蓑川さんは何色?」

悲しい瞳から一転して、
中村くんはにこにこと私に微笑んだ。

私は一瞬、言葉につまる。
彼になら──言ってもいいだろうか。

「私は……全色盲、なの」

彼の笑顔が強張る。
やっぱり、中村くんも変だと思うかな。
離れていっちゃうのかな。
彼はしばらく無言でなにかを考えていた。

「モノクロ写真の方が綺麗なものもきっとある」

そして突然にそんなことをいった。
私はしばらくぽかんとした。
そして中村くんが、私を励ましているのだと気づいて
またびっくりとする。

「色が見えないから……
 わからないかもしれない、けど。
 それに色が見えないことの何が悪いのさ」

そういうと中村くんは空を仰いだ。
彼の目に、世界はどう映るのだろう。
青だけが見えない彼に、この海はどう映るのだろう。

「それにね、そんなに自信をなくさないで。
 蓑川さんは…とっても、優しい色をしてる」

中村くんはそう言いきると、
私の方を向いて“ね?”と微笑んだ。

私は何度も、今言われた言葉を頭のなかで繰り返した。
何度も何度も、ぐるぐると頭は回る。

“蓑川さんは…とっても、優しい色をしてる”

そんなことを言われたのは初めてだ。
そんなことを考えるのも初めてだ。

パッと顔をあげて空を見上げる。
いつもはどこまでも灰色のはずの空。
今は何故だか、色がついてるように見えた。

きっとそれは、“優しい色”。
空はどこまでも広くて、
私の悩みが小さなことだと言っているようだった。

まるで中村くんみたいだ、と思った。

私の色は優しい色。
だけど優しい色は中村くんじゃないだろうか。
きっと、こんな空みたいな色。

「じゃあ、中村くんはきっと空の色だよ」

空を見ながら、また中村くんは微笑んだ。
“優しい色”、何て素敵な響きだろう。

「ありがとう。……そろそろ、行かなきゃ。
 きっと母さんたちも待ってるし」

中村くんは伸びをしながら立ち上がると、
まだ泳いでいる冴里を見た。

「宮田にもきちんと教えてみなよ。
 きっと大丈夫だから、さ」

中村くんは また明日ね、というと
砂浜を走っていった。
それを見計らったかのように、冴里が海から上がってくる。

「彩葉、中村となに話してたの〜?」

冴里はまた、さっきのように
腰に手を当てて仁王立ちしていた。
私はさっきの中村くんの言葉を考える。

“きちんと話す”
冴里なら、きっと大丈夫かな。
信じてみようか、中村くんの話を。

「ね、冴里、話があるんだけど───」

明日、また中村くんと話してみよう。
感謝の言葉と、空の写真を持って。

   ──‥*※*‥──

それはとある夏のお話。
まだ照り付ける日差しが暑い季節、
一人の少年が少女に“色”を教えました。

親友の少女は彼女が大好きです。
泳げないことを知っていても、
やはり、共にいたいと願いました。

それはとある夏の──
一つの恋と、友情の始まりのお話。

「我々は、

 うその自分を見せようとつとめるより、

 ありのままの自分を見せるほうが

 ずっと得であろう。」

本当の自分をさらけ出すのは、
きっととてもとても勇気のいること。

だけれど、きっと嘘をつくよりもずっと
素敵な色の世界が見えるはずです。

“優しい色”
それはきっと何よりもありふれていて、
それでいて何よりも美しい色でしょう。

それは誰かの心かもしれないし、
どこかの景色かもしれません。
あなたの身近な場所にもきっと色は溢れています。

それでは本日はここで終わりにしましょうか。
また次回、お会いしましょう。

《引用:ラ・ロシュフーコー》