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Re: 白銀の小鳥 Form of the love【短編集】 ( No.32 )
日時: 2014/03/23 18:58
名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: 0hhGOV4O)


《本編》
Episode4 君についた嘘

こんにちは。
だんだんと暖かくなってきましたね。

森にも色が溢れてきました。

さて、本日は少し長い物語にしましょうか。

とある春に出会った、
少年と少女のお話。

「君についた嘘」
それでは始まり、始まり。

〔character〕
麗  レイ

竜太 リョウタ

鈴  スズ

    ──‥*※*‥──

むかし、むかし。
あるところに一人の少女がおりました。


少女はいつも一人でした。

物静かで人見知りな彼女には、
友達がいませんでした。


ある日、少女が暮らす村に新しい家族が加わりました。
その一家には少女と同じ年の少年が一人。
可愛い妹と、父親と共にやって来ました。

何も知らない少年は、
少女に微笑み話しかけました。

少女は驚いて──微笑み返しました。

    ──‥*※*‥──

「お前、名前は何て言うんだ?
 俺の名前は竜太だ」

突然に、話しかけてきた男の子。
びっくりして顔をあげると、
そこには最近越してきた家族の子がいた。

「え……私?」

男の子──竜太は、こくんと頷いた。
まさか、私に話しかけるとは。

「れ、麗……」

「へぇ、いい名前だなっ!
 なあ、他のやつと遊ばねぇの?」

名前をいうなり食い付いてくる。
何だか新鮮な反応だった。

「わ、私……友達、いないから」

我ながら悲しいことだと思う。
だけれど、皆話しかけてきてくれないのだ。

「じゃあ、俺がお前の友達なっ」

竜太は私を指差した。
その顔は、とても楽しそうだ。

「ちょっと来い、麗!」

束の間、竜太に手を引っ張られる。
転びそうになって、なんとか走ってついていく。

「こっちに良い場所見つけたんだっ」

手が温かい。
同年代の子と手を繋いだのは初めてだ。

しかし、いきなり話しかけてきてこれとは……。
何だか、とても楽しい。

「ここから崖だから気を付けろ」

気づけば村の外れの崖に来ていた。
ここは村民でもなかなか来ない場所だ。

見れば言われた通り、
崖に沿って一本道が続いている。
道幅はあるが、少し違えたら真っ逆さまだ。

そろそろと壁伝いに進む。
少し進むと、開けた場所があった。

「じゃーん!
 ここが俺の気に入った場所!」

「わあ……っ」

竜太は得意気に胸を張る。

そこに広がっていたのは、大きな桜の木と菜の花畑。
まさか、村にこんな場所があったとは。

「綺麗だろっ!!
 ここ俺たち二人の秘密の場所、な!」

ニッと竜太は笑う。
その笑顔を見て、私は自分に友達が出来たのだと分かった。

「う、うんっ!」

ちょうど咲き誇っている桜が、
まるで私たちを見て微笑んでいるように感じた。

    ──‥*※*‥──

それから竜太と私は、数日に一回ほど
あの秘密の場所で色々な話をするようになった。

自分達の年齢のこと。
竜太が前に住んでいた村のこと。
今は亡き竜太の母親や、私の父さんのこと。

竜太の妹の鈴ちゃんとも遊んだ。
鈴ちゃんは私より二つ年下で、とても可愛らしい子だった。

話題はつきない。
話していくほど、新たな話が浮かんでくる。

そうしていくなかで。
私はこの唯一の友達のことを好きになっていった。

夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬が過ぎ──

気づけば、竜太が村に来てから
まうすぐ一年がたとうとしていた。

そんななかで、穏やかな日々は終わりを告げる。
とある事件をきっかけに。

    ──‥*※*‥──

Re: 白銀の小鳥 Form of the love【短編集】 ( No.33 )
日時: 2014/03/23 18:42
名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: HyYTG4xk)



     ──‥*※*‥──

事件が起こったのは、
何でもないいつも通りの日だった。

いつも通り、竜太と秘密の場所で約束していた私は
その日は少し遅れてしまった。

「急がなきゃ……」

滑らないようにそろそろと崖沿いを渡る。
すると前に、小さな女の子の姿が見えた。

あの子は……鈴ちゃん?

間違いない。
竜太の妹の鈴ちゃんだった。

突然、くるっと鈴ちゃんは振り向いた。
その目は私を捕らえる。

「あ……、麗さん」

その目には、涙が浮かんでいる。
声も震えていた。

「ど、どうしたの?」

鈴李ちゃんはふるふると首を振った。
こんな崖で、何をしているのだろう。

「ごめんなさい……
 あのね……お兄ちゃんには、内緒ね」

そういうと。
鈴ちゃんは崖から跳んで
──宙を舞った。

「ごめんなさい……」

私の目の前から鈴ちゃんが消える前に
微かに、そんな声が聞こえた。

下を見下ろすと、
鈴ちゃんが遠ざかっていった。

「え?」

とっさに伸ばした腕も、届かない。
すり抜けて落ちていく。

どんどんどんどん、小さくなる。
もう、顔さえ判別がつかない。

ガサガサッ、と木に鈴ちゃんが落ちる音が聞こえる。
私は目の前の出来事の意味がわからなかった。

今、鈴ちゃんが落ちた?
自分、から?

「あ……あっ」

私はそろそろと後ろに下がった。
そして、そのまま。
──私は、逃げ出した。

    ──‥*※*‥──

「今日の夜、村集会があるんだって」

二日後、母さんがそういった。

村集会なんて、そうあるものじゃない。
ようやく鈴ちゃんの遺体が見つかったのだろうか。

昨日時点では、鈴ちゃんの遺体は見つかっていない。
私は一昨日から外に出ていないが、
母さんによれば鈴ちゃんは『行方不明』となっているらしかった。

竜太は今、何をしているのだろう。
何を思っているだろう。

私は、どうすればいいのだろう。

    ──‥*※*‥──

「これから村集会を始める。
 皆、今日は急なところすまない。
 今日昼過ぎ、行方不明の鈴の遺体が見つかった」

ざわり、と周囲が騒がしくなる。
私は一人、木に寄りかかっていた。

「して、故鈴の兄、竜太から皆に話がある。
 竜太、出てこい」

そこで私は、二日ぶりに竜太を見た。
竜太は疲れはてているようにも見え、
何かに怒っているようにも見えた。

「鈴李は苛められていたらしいな。
 それについては咎めたくはない。
 ……教えてくれ、鈴を殺したのは誰だ?」

私はその言葉に驚いた。
竜太は鈴ちゃんは自害したとは考えないらしい。
あくまでも殺された、と思っているのだ。

「自害ではないのか?」

一人の村民が怪訝そうに声をあげた。

「鈴が自害などするわけがない……
 鈴は殺されたんだぁっ!」

私と同じことを思う村民に、
竜太は声を荒げる。

“お兄ちゃんには、内緒ね”
最期の鈴ちゃんの声が頭に響く。

もしかして、
鈴ちゃんは分かってたのだろうか。
自害などしたら、竜太が壊れてしまうことを。

きっと竜太は鈴ちゃんを助けられなかったことに
怒って、嘆いて、自分を責めてしまうと、
鈴ちゃんは気付いていたのだろうか。

それでも。
それでも苦しくて、自害してしまった。

どれだけ、辛かっただろう。
小さい体で、我慢し続けて。

竜太は鈴ちゃんが大好きだった。
片親を亡くして、そして鈴ちゃんまでも自害で亡くしたら
誰だって壊れてしまうと思う。

今、この場で犯人がいないと知ったなら。
竜太は自分をずっと責めてしまうだろう。

「そんなの……やだ」

ポツリ、と呟く私の声は風にさらわれる。
辺りはざわめきに包まれていた。

どうすればいいのだろう。

犯人はいないのだから出てくるわけがない
だけれど、出なかったら竜太は壊れてしまう。

そんなの、嫌だ。
竜太を、守りたい。

ふと私の頭の中に、ひとつの考えが浮かんだ。
それは実に簡単なことだった。

きっとそんなことをしたら、
二度と竜太とは笑いあえないだろう。
二度と家族と暮らせないだろう。

でも私は、竜太が壊れるのを見たくなかった。
そっと顔をあげる。

ごめんね、鈴ちゃん。
もう、大丈夫だから。

手にしっかりと力をいれる。
壇上に立つ竜太を見つめて。
私は、手をあげた。

「私が……この麗が、殺しました。」

ざわめきが、ピタリと止んだ。
全員の目が向けられる。

「れ、い……?」

竜太の、『信じられない』というような声が聞こえた。
私は一人、またうつむく。

「麗を捕らえよ」

村長の低い声。
ヒソヒソと、みんなが騒ぎ始める。

ガシッと両脇を二人の男に捕まれる。
そのまま、私は壇上に連れていかれた。

「麗。何故そのようなことを?」

竜太はうつむいた。
私も、うつむいた。

「鈴ちゃんが憎かった……からです。
 竜太のそばにベッタリでっ!
 ごめんな……さい……っ」

声が震える。
涙が勝手に溢れた。
もうこれで、私は。

「お前には正当な刑が下される。
 それまで牢で過ごせ」

誰も、私を犯人だと信じて疑わない。
誰も、私が捕らえられるのを止めない。

何故か今は、それがひどく悲しかった。

また二人の男に腕を捕まれ、
私は村の奥にある牢へ連れていかれた。

竜太は何も言わない。
うつむいた竜太の顔は、ついに見えなかった。

    ──‥*※*‥──

Re: 白銀の小鳥 Form of the love【短編集】 ( No.34 )
日時: 2014/03/23 18:46
名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: 0hhGOV4O)


    ──‥*※*‥──

「鈴殺害の罪により、
 麗を村追放の刑に処す」

数日後に、そう下された。

母さんは体調を崩してしまったと聞いた。
村の人たちは私のいる牢の外から石を投げていた。

そんな日々が続いて、ついに私の去る日。

皮肉にも、その日は私が竜太と出会って
ちょうど一年の桜が咲き誇っている日だった。

薄桃色と透き通るような空の色。
舞い散る桜が、とても綺麗だ。

村を去る私を桜が励ましてくれている気がした。

    ──‥*※*‥──

村の外れ、門の外。
竜太と村長が私の送り役として来ていた。

「麗、それではな」

村長は少し悲しげに、それでも厳しげな声で別れを告げる。
竜太は何も言わなかった。

「私は罪人でございます。

 このような処置をしていただき、
 最後までありがとうございました。

 本当に申し訳ございませんでした」

深々とお辞儀をする。

本当にこの村追放という刑で済んだのは奇跡だ。
村長は私がまだ若いのが理由だという。

しかし、この事は決して役人に知られてはならない。
本当なら死刑にも値するほどなのだから。

「時間じゃ。
 今時を持って、麗はこの村の人間ではなくなった。
 どこかで、ひそと生きてくれ」

ひとつの風呂敷包みだけを持って、
私は一歩を踏み出す。

生まれ育ったこの村を、
こんな形で去るなんて悲しいけれど。

それでも、きっと私は間違っていない。

「麗!!」

もう一歩を歩こうとした私に、
後ろからあの懐かしい声が聞こえた。

「───竜太?」

振り替えれば、桜の木の下に竜太がいた。
そして、こちらを強く見つめている。

「俺はお前のことは許せない……許さないがっ!!
 だけどっ!お前のことが……好きだった!!」

そういうと、竜太は後ろを向いて走り出した。

村の奥に、竜太の姿は消えていく。
あとには村長だけが残っていた。

ポロっと、一粒涙がこぼれる。

堰を切ったように次から次から涙がこぼれた。
それはスッと私の頬を滑って、地面へ落ちた。

“俺はお前のことは許せない”

“だけど”

“お前のことが好きだった”

許しては、もらえない。
もう一生、この誤解は解けない。

だけれど。

もうこの言葉だけで、十分だ。
私は本当に、幸せ者だ。

「私も……だよ」

もう愛しい人に届かない独り言は、
風にさらわれて消えていった。

二度と竜太には出会わないだろう。
二度とこの気持ちは伝わらないだろう。

私はただ、声を出さずに泣いた。
涙が枯れるまで、私は立ち尽くしていた。


「さようなら……」

そしてまた、歩き出す。
行く宛はないけれど、いつかはどこかにたどり着く。

この涙と想いは枯れることがないけれど、
きっとその分、幸せなこともある。

そう信じて、生きていこう。
竜太のことを忘れないで、思い出として覚えていよう。

私は鈴ちゃんと竜太を守れたかな。
きっと、きっと守れたよね。

それなら、もうそれでいい。

“泣きたくなったら泣けばいいんだ”

いつしか、竜太に言われた言葉を思い出す。
今はもう戻らない、あの穏やかな日々。

「……さようなら」

もう一度だけ、ポツリと呟く。
前を見ると、山の緑が広がっていた。

春風が吹き抜ける。
小鳥の声が、この先の未来を祝福してくれる気がした。

    ──‥*※*‥──

「別れも死もつらい。
 
 ──中略──

 だから、

 今日ちゃんとお別れできて、

 よかったと思う。」

家族や仲間たちに蔑まれ、
愛しい人から憎まれて許されなくても
少女は全てを守り抜きました。

少女の未来は明るく輝いています。
自分を変えてくれた愛しい人を胸に、
少女はこれからも歩き続けるでしょう。

これは少し切ない恋の物語。
むかしむかし、あるところに。
愛しい人を守った少女がおりました、とさ。

それでは今回はここまで。
また次回、お会いしましょう。

《引用:よしもとばなな》

    ──‥*※*‥──

今回は少しだけ長いお話でした〜!
な、なんとかまとめられた…

これは……短編?なのでしょうか

でわでわ。