コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 白銀の小鳥 Form of the love【短編集】 ( No.60 )
- 日時: 2014/05/04 10:44
- 名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: 4SWfsvrw)
《本編》
Episode5 変わりゆく貴方へ
お久しぶりです。
森の景色も春から夏へ、
段々と鮮やかなってきましたね。
紅茶の種類も変えてみました。
良い茶葉が森で摘めたんですよ。
さて、では本日の物語を読みましょうか。
もう遠い昔の、とある少女の物語です。
魔法という概念。
あなたはこの世に、魔法があると信じますか?
あるとしたら、とても素敵ですね。
「変わりゆく貴方へ」
それでは始まり、始まり。
〔character〕
カルミア・セレット
ガウラ・ハルツァー
イザベル・アラーニャ
──…*※*…──
これはもう遠い昔のお話。
世界には“魔女”がいて、薬を作り、魔術を行っていた。
そしてその中でも才能のある数少ない者──。
──それを人々は“大魔女”と呼んだ。
──…*※*…──
よく晴れた朝。
とある町の外れの宿に、二人の少女がいた。
一人は美しく長い銀髪に碧の瞳、
一人は亜麻色の短い髪に利発そうな黒の瞳。
二人は世界を旅する“魔女”である。
「失礼。モントブレチア国王宮からの速達です。
ここに大魔女セレット様はいらっしゃいますか?」
二人の少女が朝食をとっていると、手紙屋が
上質そうな封筒を手に駆け込んでくる。
その声に、銀髪の少女が立ち上がった。
夜を思わせる紺のマントに、腰には白い杖をさしている。
「私ですけれど」
銀髪の少女──カルミアは手紙屋から封筒を受け取った。
手紙屋は恭しく礼をすると宿を出て行く。
カルミアは指を弾いて封を開いた。
「カルミア様、どのような内容ですか?」
亜麻色の髪の少女がカルミアの手紙をのぞき込む。
すると、その顔に驚きが走った。
「イザベル、これってモントブレチア王からの
依頼状だわ」
カルミアは困惑したような眼差しで手紙を見つめた。
亜麻色の髪の少女、カルミアの従者のイザベルは
カルミア同様手紙を見つめている。
「モントブレチアで流行った疫病が王に伝染、内容は王の治療……。
別に受けてもいいんだけれどね。どうしようかしら」
「国王陛下とのことですか?」
イザベルの言葉にカルミアは頷く。
カルミアが渋るのには訳があった。
今から八年前、当時九歳のカルミアはモントブレチアで母親と暮らしていた。
モントブレチアは魔女と人間が互いに助け合い、共存する国だった。
そしてカルミアはお忍びで町に出ていた王子、ガウラと知り合う。
ガウラとカルミアは仲が良くなり度々遊んだ。
しかしある時、隣国の国王が魔女に殺される事件が起き、人々は魔女に畏怖を抱くと共に忌み嫌うようになってしまった。
カルミアは母親と追われるようにモントブレチアを抜けだし、別の村で暮らすようになったのだ。
昨年にモントブレチアの先代国王が亡くなり、
ガウラが即位したことはカルミアも知っている。
「きっと今会ったら離れたくなくなるわ。
……それに、陛下も大魔女が私だと知らないだろうし」
八年間修行して、カルミアはつい先日大魔女になり村を出たばかりだ。
それにカルミアには夢がある。
“旅をしながら人々を助け、国王のガウラを影から支える”という夢が。
その夢を叶えるため旅を続けるために、今ガウラと会ってしまうとダメなのだ。
きっとガウラから離れたくなくなってしまう。
「……では、カルミア様自身に歪の魔法をかけてはいかがですか?」
考え込むカルミアに、イザベルは一つの提案をした。
カルミアはしばし沈黙した後、大きく頷く。
「ええ、そうしましょう」
──…*※*…──
歪の魔法とは、本人を本人と認識させない魔法で、簡易魔法の一つだ。
つまり本人の顔や姿を見ても、それを本人だと認識せずに他人の同様に感じる魔法である。
こればかりは実際にやってみなければよくわからないのだから仕方ない。
「魔を宿す鏡よ、我の姿を歪ませろ──」
自分に白い杖を向けながら、カルミアは瞳をぐっと閉じた。
緋色の光がカルミアを包むと、その光は緩やかに拡散していく。
「カルミア様、失礼ながら私にはお変わりがないように思えます」
側で見ていたイザベルは目を凝らしてカルミアを見つめた。
カルミアはゆっくり息を吐く。
「あなたまで認識できなかったら困るもの。対象から除外しておいたわ。
……さ、城へ向かいましょう」
今、カルミア達がいるのはモントブレチアの王都の外れだった。
既に時間は夕方になっている。
朝方までカルミアのいた隣国のレマールから
モントブレチアまでは道数が少ないのだ。
城から少し離れた茂みで魔術を終えたカルミアは
いよいよ見えてきた門を睨むかのように歩いた。
「大きいわねえ……」
幼い頃はそこまで城をじっくり眺めることがなかったからか、
今更ながらに城が大きく見えた。
「失礼しますが、大魔女のセレット様でしょうか?」
さらに門へ近づいて行くと、門番が走り寄ってきた。
カルミアが頷くと門番は門の方へ目を向け、小さく頷いた。
すると門から上質そうな白い上着に身を包んだ城の者らしき人物が歩いてくる。
「案内をさせていただきます、ウィールと申します。
早速ですが、国王陛下がお待ちでございます」
ウィールは恭しく礼をした。
カルミアとイザベルも慌てて頭を下げる。
「お呼びいただきました、セレットでございます」
そっと頭を上げると、ウィールはゆっくり歩き出した。
ついてこいということらしい。
──…*※*…──
- Re: 白銀の小鳥 Form of the love【短編集】 ( No.61 )
- 日時: 2014/05/04 11:09
- 名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: 4SWfsvrw)
──…*※*…──
城の大きな門を潜ると、
室内で冷やされた空気が足下を撫でた。
「ウィール様、私はお先に主様のお部屋の準備をしたいので、
宿泊部屋へ案内していただいても?」
曲がり角でイザベルは足を止めた。
ウィールはそれを聞くと、
廊下にいたメイドを呼び止める。
「アレッサ、
この方を本日御用意したお部屋まで」
「承知いたしました。どうぞこちらへ」
アレッサと呼ばれたまだ若いメイドは、
見る人を安心させるような笑みで
イザベルと共に歩いていった。
曲がり角を真っ直ぐに進むと、
豪勢な装飾が施された階段が見える。
「ここを上がると直ぐに陛下の御部屋となっております」
ウィールはそう言うと階段を静かに上り始めた。
分厚い絨毯が足音を吸い込み、
広い廊下はまるで無音だった。
ゆったりとした段の階段を上ると、
人の部屋とは思えない大きな扉が待ちかまえていた。
「陛下、大魔女様をお連れいたしました」
コンコン、と心地よいノック音が二回響く。
しばらくの沈黙の後、扉は静かに開き始めた。
最初に、白と金で飾られた壁が見えた。
次に、大きな真っ白いベッドに横たわる、
誰かの影。
誰かはフラフラと上半身を起こし、
こちらを見据える。
漆黒の髪に、薄い茶の瞳。
青年ながらもどこか幼さを残す顔立ち──、
国王ガウラ・ハルツァーその人だった。
「よくぞ来てくれた、大魔女よ。
情けないが私はこの状態でな」
数年前と、変わらない面影。
泣きたくなるほどに懐かしく、
愛おしい存在がカルミアの目の前にいた。
しかし彼は、カルミアを見ても何も言わない。
魔術だと知っても、悲しいことだ。
顔は少し火照っている。
疫病も長くは流行らなかったと聞いているから、症状に合った薬を服用すれば直ぐに治るだろう。
カルミアはそんなことを悶々と考える。
そうでもしていなくては、
今すぐ泣いてしまいたい気分だった。
「そなた、セレットとは姓だろう。名は何と言う?」
瞬間、カルミアは顔を上げた。
何と言えばいいのか、わからない。
カルミアなどと言ってしまえばバレるだろう。
(何故名字を偽って伝えなかったのよ、私っ)
心の中で自分を叱責しながら考える。
ふと、頭の中に一つの記憶が浮かんだ。
幼い頃、ガウラと言った草原の光景。
(あのとき、陛下が綺麗だと言った花の名前は。)
「カトレア──と、申します」
ガウラの目を見据えてカルミアは微笑む。
ガウラはそれを聞き頷いた。
「ふむ。では治療を頼む、カトレア」
「承知いたしました」
そう言ったカルミアは、どこか悲しそうで。
しかしそれにガウラは気付かなかった。
──…*※*…──
「カルミア様、どうでした?」
夜分遅く、診察を終えて部屋へ帰ってきた
カルミアをイザベルは出迎えた。
カルミアはボフンとベッドに倒れ込む。
「二、三日薬を飲んで休めば大丈夫よ」
顔に腕を翳しながらカルミアは呟く。
イザベルは困ったように笑った。
「陛下は昔とお変わりありませんでしたか?」
「……なんだか王らしくなってたわ」
カルミアは盛大にため息をつく。
魔術をかけているとはいえ、
変わっている幼馴染に会うのは変な気分だ。
「この診察が終わったら、
もう会えないかもしれないんですよ。
少しだけ、素直になられては?」
「そうは言うけれどね……」
ガウラはカルミアをカルミアだと
認識していない。
カルミアだけがドギマギしていては不審だろう。
「陛下のお気持ちを聞ければ良いですね」
イザベルはニコニコと笑う。
カルミアはわざとらしく枕に顔を埋めた。
(あまり自分を責めていないと良いけど)
イザベルが蝋燭を吹き消す。
瞼を閉じる前に、カルミアはそんなことを思った。
──…*※*…──
「もう熱も下がりましたね。
この薬は明日までで大丈夫です。
では私はこれで失礼いたします」
薬をベッド横の台に置き、カルミアは立ち上がる。
ガウラはお辞儀をして部屋から出ていこうとする
カルミアのローブの裾を掴んだ。
「少し、話をしても良いか?
そなたに……話したいことがあってな」
少年期を思わせるガウラの雰囲気に、
カルミアは思わずクスリと笑った。
「私でよろしければ、どうぞ何なりと」
ガウラはホッとしたような顔で、
上半身を起きあがらせると
ベッドの近くの椅子を指し示した。
カルミアが座るのを見ると、
ガウラはゆっくりと口を開く。
「まだ私が小さい頃、仲の良い同い年の魔女がいた。
……ちょうど、そなたと同じ美しい銀の髪を
していてな」
カルミアはハッとガウラを見た。
ガウラの表情は何か大切なことを
話すときのように引き締まっている。
「このモントブレチアは昔、魔女と人が
互いに助け合い共存をしていた。
しかしある時、隣国のファナモチアで
王が魔女に暗殺される事件が起きたのだ」
それはカルミアもよく知る“魔女の反乱”の
ことだろう。
魔女の間の調査によると実際は魔術の調合が
失敗して、流れ出た有毒なガスが
王のいる部屋まで届いた、らしい。
「人の噂は怖いもので、
至る所で尾ひれを付けて広まっていく。
その日からファナモチアを始めとする
この地は魔女を激しく嫌うようになってしまった」
それを語るガウラはそのときを
思い出しているのか切なげな表情をしている。
「次々と追われるように
魔女はこの地から去っていく。
それはあいつも例外ではなかった。
私は国境を越えると言ったあいつに、
また会おうとしか行ってやれなかった」
カルミアも脳裏に思い描いた。
国境を越えて別の所へ行く、と言った
カルミアを悲しみと驚きを併せた瞳で
見つめてくるガウラ。
(でもね、ガウラ。私があなたの言葉にどれだけ救われたか)
ガウラとまた会える、そう堅く信じて過ごした
八年間。
ガウラの言葉を支えに修行に耐えたのだ。
「たまに思うのだ。
あいつは私のことを恨んでいるのではないかと。
ただのうのうと城で過ごした私を
憎んではいないかと」
ガウラはカルミアに視線を向けた。
まるで何か、言葉を待っているかのように。
「……そんなこと、ありませんよ。
その方はきっと、陛下の言葉に救われたはずです」
(現に私は、救われたのだから)
そう心の中で付け足す。
予想外の言葉だったのか、
ガウラは目を見開いた。
「人はなにか希望がある限り、
何でも出来るのですから。
その方は陛下の言葉に救われましたよ」
ガウラはしばらく考え込む。
そしておもむろに顔を上げた。
「……そうだといいな。そなたに言われると何故か本当にそうなっている気がする」
カルミアはニコリと微笑んだ。そっと椅子を引いて立ち上がる。
「では陛下、私とイザベルは明日の正午に
陛下の診察が終わり次第、
早急に出発させていただきます」
言うと、ガウラは少し慌てるような素振りを
見せた。かと思うとなにか納得したように頷く。
「そうだな……そなたにはそなたの
やるべきことが有るのだろう?
明日の正午に帰る準備を整えておこう。
短い期間だったが世話になった。」
「はい。ご配慮感謝いたします陛下。
それではお休みなさいませ」
深くお辞儀をして、
カルミアはそっとガウラの部屋の戸を閉めた。
──…*※*…──
- Re: 白銀の小鳥 Form of the love【短編集】 ( No.62 )
- 日時: 2014/05/04 11:08
- 名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: 4SWfsvrw)
──…*※*…──
太陽が暑く光っている。
カルミアが去る日、国王ガウラと従者数人が城の裏口でカルミアを見送っていた。
大々的な式典を行わないのも、カルミアの「あまり目立ちたくない」という強い要望だった。
「大魔女カトレア、此度は深く礼を申す。我が国はそなたを忘れぬ。
──どうか旅路に気をつけてな」
ガウラは最後だけ、少年の頃のように笑った。
カルミアもフワリと笑みをこぼす。
「我が身にはもったいないお言葉。陛下の御健康と、王国の弥栄を心よりお祈り申し上げます。
陛下もどうかお体にお気をつけてくださいね」
イザベルとカルミアは深く腰を折る。
白い杖が太陽に照らされ反射した。
「そなたに出会えてよかった。
ではな、またいつか会うときまで」
「私もそう思っていますよ、陛下。
またいつかお会いできるときまで」
カルミアは最後にガウラを見てから前を向いて歩き始めた。
未練を振り切るように、早足で。
──…*※*…──
「もうよろしいのですか?」
イベリスは前を歩くカルミアに問いかけた。
カルミアの長く美しい髪が風に靡く。
カルミアは立ち止まり、イベリスの後ろにそびえ立つモントブレチア城を見上げた。
だいぶ遠ざかった城には、もう王族たちの姿は見えない。
「ええ、もういいの。あの方は立派になられたわ」
カルミアは少し切なげな目をして城の塔を見た。
そこは王子の部屋がある場所だ。
「こんな時くらい、素直に名前をお呼びになられては?」
イベリスは素直ではない主に困ったように笑いかけた。カルミアは応えるように悪戯気に微笑む。
「もう、あの方は一国の王だもの」
カルミアは体を半回転させて、また前へ歩き始める。
イベリスは城を一瞥してからカルミアを追いかけた。暖かな風が二人の頬を撫でていく。
(ねぇ、ガウラ)
イベリスの前を歩きながら、カルミアはガウラを想う。心の中で語りかけた。
(私はもう行くけれど。幸せになってね)
カルミアは歩く。
もうすぐ太陽が西に差し掛かりそうだった。
(優しい風が吹いていて、あなたが優しい顔で微笑んでいる。
──それが私の、愛する世界だから)
カルミアはもう一度振り向いた。そしてすぐに顔を逸らし、何事もなかったかのようにまた進む。
しかしイベリスは知っていた。
優しい顔で微笑むカルミアの瞳に、綺麗な雫があったことを。
「さ、今日からまた旅だわ。気を引き締めていくわよ、イベリス」
長い銀髪が翻る。
それがきらきらと太陽に反射して。
「はい、カルミア様」
イベリスは優しく微笑む。カルミアの横に影が並んだ。
とある夏の昼下がり。
二人は歩く。どこまでも先へ。
ある時は雨や風に吹かれながら。
ある時は砂漠に足を取られながら。
そこに光がある限り、大きな希望を信じて。
二人はどこまでも歩き続ける。
優しい人々が幸せに微笑んでいる。
それが少女の愛した世界。
だから少女は白い杖を振るう。
誰かの幸せのために。
愛する人の、笑顔のために。
世界がすぐに変わるように、人は成長し、変わっていく。
それでも、きっと本質は変わらないのだ。
ガウラはいつまでもカルミアを忘れずに王らしく成長していく。
カルミアもガウラの幸せを願いながら成長していく。
誰だって、そうなのだ。
きっと大切な思い出を持ったまま変わっていくのだろう。
これはもう遠い遠い昔の──。
今なおどこかで語られる、一人の少女の物語。
──…*※*…──
「時は悲しみと口論の傷を癒す。
人はみな変わる。
過去の自分はもはや
現在の自分ではない。
悩む者も悩ます者も、
時がたてば別人になる。」
王を影から支える。
愛する人を少しでも助けたいという彼女は
自分の想いを心の中に隠して、今日も旅を続けます。
変わっていくこと。
それは怖いかもしれないし、望むものかもしれない。
誰がどう変わるのかは
きっと誰にもわかりません。
これは昔々の御伽話。
一人の少女の、始まりのお話。
それでは今回はここまで。
また次回、お会いしましょう。
《引用:パスカル》
──…*※*…──
久々の更新でした。
次回はもうちょい早く更新したいと思います(^^;)
でわでわ。