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- Re: 白銀の小鳥Form of the love【短編集】久々更新 ( No.77 )
- 日時: 2014/10/06 09:10
- 名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: Q19F44xv)
《本編》
Episode7 世界と、鳥と、彼女と。
秋の色も色濃くなってきました。
森も静かな風が通って、私はこの季節が
一番好きなんですよ。
そういえば、先程お菓子を作ってみたんです。
お一ついかが?
…ああ、食べながらで結構です。
では、本日の物語を読みましょうか。
少し寂しい、だけど優しい。
少女がいなくなった世界で、少年が思うこと。
少女の強さと、優しさと、そこに潜む弱さ。
少年は静かに少女について考えます。
「世界と、鳥と、彼女と。」
それでは始まり、始まり。
——‥*※*‥——
少女は笑顔だった。
優しく微笑んでいた。
少女は泣いていた。
静かに泣いていた。
——‥*※*‥——
もしかしたら、初めから。
僕と彼女は違ったのかもしれない。
今ではもう、わからないけど
彼女は弱くも、強くもあったのかもしれない。
ただ逃げてばかりいた僕とは違って、強くて
決意のある人間だったのかもしれない。
立場が弱くて、追い詰められて。
自ら命を絶つ勇気と、決意というしなやかな強さが。
ある人は、自殺は弱いものだという。
だけれど、どれほど弱くて追い詰められていたとしても。
やはり命を絶つのは決意がいると思う。
——彼女にこんなことを言ったら、笑われるだろうか?
きっと、あの別れの時のように綺麗な顔で
からかうように、それでも優しく微笑むのだろう。
そういえば。
そういえば彼女は、前から鳥が好きだった。
空を悠々と泳ぐ鳥。
広い空を自由に飛ぶ鳥。
彼女は鳥に、大きな憧れを抱いていたのかもしれない。
自分も鳥のように空を飛びたい、と。
だから、だろうか?
彼女はそこまでして、そんなにも飛びたかったのだろうか?
いったい、彼女にとっての鳥と空は。
どれほどの意味を持っていたんだろうか?
少なくとも、僕には。僕にとっての空と鳥は
彼女が抱くほどの意味はないのだと思う。
だから今だって僕は空を見上げているけれど、
別に特別な感慨など抱いてはいない。
ただ、寂しかった。
彼女がその生の最期に見た景色が
今見上げている空だと思うと、寂しかった。
空はたしかに綺麗だ。美しい。広くて、全てを取り囲むようだ。
だけど、何もない。
ただどこまでも青く高いだけだ。
青しかない。一色の色しかない。
寂しいじゃないか。
たとえこの世が美しくても、汚くても。
最期の映像が青一色だなんて。
切ないじゃないか。
それとも。
それとも彼女は、それでよかったのだろうか?
青い空に、他の何かを見ていたのだろうか?
——今はもう、わからない。
彼女はきっと、自ら鳥になったのだから。
もう、語りはしない。
この世界の中で、一番美しく輝いている鳥に
彼女はなったのだから。
だからきっと、彼女は飛び降りたのだ。
真紅の華と命を散らしたのだ。
鳥になれたからこそ最期に笑ったのだ。
寂しくて、切なかったから最期に泣いたのだ。
……きっと。
僕は彼女のように散ることなどできない。
だから今日も、足掻いて生きている。
彼女のいなくなった世界はどこか不自然で、
静かで、だけど変わらずに。
今日も、回っている。
——‥*※*‥——
「どんな悲しみに出会っても、
それでも人生は
生きるに値する。」
華は散る。命は散る。
それはきっと、悲しくて、残酷で。
それでも、美しい生物の定めなのでしょう。
少女も、鳥も等しく命を散らしていきます。
少年は少女のようには散れなくて、
それでも少女を忘れずに生きるのでしょう。
地球は回ります。何が起こっても。
無情に、回ります。
命は、一度きり。
その命は儚く、美しい。
きっと誰もがそう願うでしょう。
それでは、今回はここまで。
また次回、お会いしましょう。
《引用:村山由佳》